マルクス・アウレリウスは『自省録』でこう語っています。
「お前は三つのものから成っている。肉体、息、そして精神である。このうち最初の二つは預かりものにすぎないが、三つめは真にお前のものだ」
この一文は、ストア派哲学の核心を突いています。私たちは身体を持ち、呼吸をして生きていますが、それらは環境や他者に左右されるものです。唯一「自分のもの」と言えるのは、精神だけなのです。
奪われる可能性のあるもの
- 肉体:病気や事故、老化によって簡単に損なわれます。投獄や拷問といった外的要因によっても影響を受けます。
- 息(呼吸):寿命が尽きれば止まり、他者によっても奪われ得ます。運動や病気によって苦しくなることもあります。
私たちはこれらに多大な関心を払い、守ろうとします。しかしどれだけ努力しても、完全には制御できません。
奪われない唯一のもの ― 精神
一方で、精神は誰にも奪えません。
最後の瞬間まで、自分自身のものであり続けます。
- 困難な状況に置かれても、どう解釈するかを決めるのは精神
- 他者から不当な扱いを受けても、心の姿勢を選べるのは精神
- 自分の目的や価値を決めるのも精神
これはまさに「自由の領域」です。外界に支配されず、私たち自身が選択できる唯一の場所です。
借り物と持ち物を区別する
マルクス・アウレリウスは「肉体と息は預かりものにすぎない」と言います。
借りている家に過度の投資をしないように、借り物には限界があります。
もちろん肉体や呼吸を軽視するわけではありません。健康を大切にし、生活を整えるのは重要です。
しかし、それらを「自分のすべて」と錯覚すると、失われたときに人生の土台まで揺らいでしまいます。
精神は借り物ではなく、真に自分の持ち物。だからこそ、最も大事にし、育てるべき対象なのです。
精神を正しく扱うためにできること
- 日々の内省を欠かさない ― 感情や判断を点検する
- 価値判断を吟味する ― 世間の声ではなく、自分の理性に基づいて決める
- 感情に振り回されない ― 困難を解釈する視点を選ぶ
- 精神の健康を第一にする ― 心を乱すものを遠ざける
まとめ ― 精神を守ることが自由を守ること
肉体や呼吸は、環境や運命によって簡単に失われます。
しかし、精神だけは自分のもの。
だからこそ、日々の選択において「精神をどう扱うか」に最も注意を払うべきです。
マルクス・アウレリウスが示すように、精神を正しく遇することこそが、人間にとって真の自由を守る道なのです。