リハビリで痛みとうまく付き合えない人へ|「大丈夫な痛み」と「危険な痛み」を見極める方法
リハビリで痛みとうまく付き合えない人へ
「大丈夫な痛み」と「危険な痛み」を見極める方法
リハビリにおいて「痛み」との付き合い方は、回復のスピードを左右する最も重要なポイントの一つです。
「まだ痛いから動かせない」と言う患者もいれば、「痛くても頑張れば治る」と無理をする患者もいます。
どちらのタイプも、痛みの理解不足がリハビリの妨げになっています。
今回は、臨床でよく出会う「痛みとうまく付き合えない人」の特徴と、安全にリハビリを進めるための考え方を整理します。
痛みを怖がりすぎる人と、我慢しすぎる人
リハビリで痛みとうまく付き合えない人には、大きく分けて二つのタイプがあります。
① 痛みを過度に怖がるタイプ
少しの痛みでも「動かしたら悪化するのでは」と不安になり、動作を控えてしまう人。
このタイプは「時間が解決してくれる」と思い込み、リハビリを避けてしまう傾向があります。結果として、関節拘縮や筋力低下を招くことも多いです。
② 痛みを我慢しすぎるタイプ
一方、「痛みなんて気の持ちよう」と無理をしてしまう人もいます。
力任せに動かしたり、仕事・スポーツ復帰を急ぐあまり、患部を悪化させてしまうことがあります。
どちらのタイプにも共通するのは、「痛みの意味」を正しく理解できていないということです。
リハビリに「痛み」はつきもの——避けては通れない理由
まず理解しておくべきことは、リハビリには基本的に痛みが伴うという事実です。
特に「可動域訓練(ROM訓練)」では、固まった関節を元の角度まで動かす必要があり、その際に身体が抵抗反応として痛みを発するのは自然なことです。
人間の身体は「変化を嫌う」性質を持ち、これをホメオスタシス(恒常性維持機能)と呼びます。
可動域を拡げるリハビリでは、その“変わりたくない身体”に刺激を与えるため、一時的に痛みが出るのは必要なプロセスなのです。
痛みを完全に避けてしまえば、関節はいつまで経っても動くようになりません。
「大丈夫な痛み」と「危険な痛み」を見極める3つのポイント
とはいえ、すべての痛みが「我慢すべき痛み」ではありません。
ここでは、臨床で患者指導に活用できる3つの判別ポイントを紹介します。
① 痛みのきっかけと強さの変化
手術直後であれば痛みがあるのは当然です。
しかし、安静にしているだけで痛みが急に強くなったり、転倒・荷重などの明確な負荷後に痛みが増した場合は注意が必要です。
また、手術後しばらくして痛みが急増した場合には、再損傷や感染のサインであることもあります。
逆に、リハビリを始めて少し痛みが出る程度なら、筋・関節が反応している“良い痛み”の可能性が高いです。
② 痛みが出るタイミング
痛みは大きく「安静時痛」と「動作時痛」に分けられます。
- 安静時痛:じっとしていてもズキズキする → 炎症や感染などのリスクあり
- 動作時痛:動かしたときだけ痛い → リハビリ過程でよくある反応
さらに、動作時痛にも種類があります。
- 全動作時痛:どんな動作でも常に痛い(要注意)
- 部分的動作時痛:特定の方向だけ痛い(注意)
- 限界動作時痛:動かしきる瞬間にだけ痛い(大丈夫な痛み)
この中で最も安全なのが限界動作時痛。
可動域を広げるリハビリでは、この痛みを“目安”にするのが基本です。
③ 痛み以外のサインの有無
痛みのある部位に赤み・腫れ・熱感・発熱がある場合、炎症や感染の可能性があります。
また、手術部位に「硬いものが触れる」「違和感が強い」といった訴えがあれば、インプラントトラブルも疑うべきです。
これらのサインがあるときは、「痛みと闘う」よりも医師に早めの確認を依頼することが大切です。
患者教育のポイント:不安を減らし、リハビリを継続させる
痛みに対する不安が強いと、患者はリハビリから後退してしまいます。
そのため臨床家は、**「この痛みは安全」「この痛みは危険」**という判断軸をできるだけ具体的に伝えることが重要です。
たとえば、
「この角度で出る痛みは“可動域を広げるための痛み”ですよ」
「もし赤みや熱が出たら教えてくださいね」
といった声かけだけで、患者の安心感は大きく変わります。
“痛み=悪いこと”という思い込みをほぐしながら、「痛みを理解して前に進む」リハビリマインドを育てましょう。
まとめ:痛みを避けず、正しく理解して乗り越える
リハビリでの痛みは、敵ではなく回復のためのメッセージです。
痛みを恐れすぎれば動かせず、我慢しすぎれば再損傷につながる。
大切なのは、**「正しい範囲で痛みと付き合う」**という姿勢です。
臨床家の役割は、患者がその痛みを理解し、安心して動けるように導くこと。
「痛みの質を見極め、必要な痛みを受け入れる」——それがリハビリを成功に導く第一歩なのです。
