リハビリの限界を超える方法|後遺症と向き合う患者を支える“視野の拡げ方”と“ゴール設定”
リハビリの限界を超える方法
それでも人は生きていく
リハビリを長年続けてきた人なら、誰しも一度は感じたことがあるでしょう。
**「これ以上は回復しないのではないか」**という限界。
どんなに優れた手術でも、どんなに丁寧なリハビリを行っても、
それでも目標とするレベルまで回復しないケースは存在します。
整形外科であれば、たとえば大きな腱板断裂の手術をしても、
縫合部の一部が再断裂してしまい、筋力が完全には戻らない。
一年以上リハビリを継続しても、肩の挙上が制限されたまま。
――そうした“限界”は、現実として確かに存在します。
手術も万能ではない。
薬も万能ではない。
リハビリも、また万能ではない。
それでも、人はその中で生きていくのです。
そして、そこからが本当の意味での「リハビリの始まり」なのかもしれません。
「限界を超える」とは、“結果”ではなく“視点”を変えること
「限界を超える」と聞くと、何か奇跡的に機能が戻るようなイメージを持つかもしれません。
しかし、ここで言う“限界を超える”とは、物理的に不可能を可能にすることではありません。
むしろ、視点を変えることで新しい可能性を見出すことです。
視野を広げることで見えてくる“別のゴール”
たとえば、右肩が挙がらなくなった患者がいたとします。
それはショッキングな事実です。
しかし、その一点だけに意識を集中してしまうと、人生全体が「黒く」見えてしまいます。
けれども、少し視野を広げてみるとどうでしょう。
左肩は元気。脚も動く。内臓も健康。家族や友人に恵まれている。
つまり、「失ったもの」よりも「まだ持っているもの」に目を向ける視点が生まれます。
これは決して現実逃避ではなく、リハビリの次のステージです。
ある患者さんは、右肩が挙がらなくなったことをきっかけに、
美容室のシャンプーサービスを利用し始めました。
最初は“できない代替”として利用していたものの、
次第にその爽快感に魅了され、身だしなみへの意識が高まり、
人との交流まで増えたといいます。
この変化は、“肩が挙がるようになった”わけではありません。
しかし、生活の質(QOL)が明らかに向上したのです。
これこそが「リハビリの限界を超える」ということの一つの形です。
ゴールを再設定する——「治す」から「生きる」へ
リハビリの目的を「元に戻すこと」だけに置くと、
そこに到達できなかった瞬間に、全てが“失敗”のように感じてしまいます。
しかし、ゴールを「元に戻すこと」から「より良く生きること」に変えるだけで、
リハビリの意味はまったく違ったものになります。
たとえば、
- 肩が完全に挙がらなくても、着替えが自分でできるようになる
- 手足に麻痺が残っても、外出や趣味を再開できる
- 仕事を部分的にでも再開して社会とのつながりを保てる
これらはすべて「ゴール達成」です。
“回復の質”をどう定義するかが、限界を超える第一歩なのです。
臨床家としては、患者のゴールを「動かす」から「生きる」に再設定できるよう、
サポートしていく必要があります。
それは単なる身体のリハビリではなく、人生のリハビリでもあります。
セカンドオピニオンと「心の整理」
もちろん、「限界」だと思っていたものが実はそうでないこともあります。
他の医師や療法士の意見を聞いたり、治療法を調べたりすることも大切です。
しかし、セカンドオピニオンが「出口探し」ではなく「心の整理」になっているかどうかは重要です。
延々と病院を転々とし、疲弊してしまう「ドクターショッピング」状態に陥る前に、
「今できる最善」と「これからの生き方」を一緒に考えることが、臨床家の支援の役割でもあります。
まとめ:リハビリの“限界”を超えるのは、心の柔軟性
リハビリの限界を超える方法とは、
- 視野を広げて「できること」に目を向けること
- ゴールを再設定して「生き方のリハビリ」を始めること
リハビリは、失った機能を取り戻すだけの作業ではなく、
新しい自分の身体と生き方を再構築するプロセスです。
限界を恐れるのではなく、限界を受け入れたうえで「その先をどう生きるか」。
そこに、リハビリの真の価値があるのではないでしょうか。
