国際疼痛学会による定義改定
2020年、国際疼痛学会(IASP)は41年ぶりに「痛みの定義」を改定しました。
新しい定義では、
「痛みとは、実際の組織損傷、もしくは組織損傷が起こりうる状態に付随する、あるいはそれに似た感覚かつ情動の不快な体験」
とされています。
少し抽象的でわかりにくく感じるかもしれません。しかし、これを神経の観点から整理すると「痛みを一つの線として捉える」ことができ、臨床での理解がぐっとシンプルになります。
痛みを「一つの線」として考える
痛みを神経経路の一連の流れとして捉えると、次のように整理できます。
1. 構造破綻による侵害受容性疼痛
組織の損傷や炎症が起こると、侵害受容器が反応します。その情報は 上行性疼痛伝導系 を通じて脳に伝わり、「痛い」というアウトプットを生みます。
これは整形外科領域で手術適応となるケースを含め、構造異常=痛み として扱われる典型的な 侵害受容性疼痛 です。
2. 神経経路での異常による神経障害性疼痛
一方で、痛みの伝導路そのものに異常が生じても痛みは発生します。
例えば、末梢神経の圧迫や損傷、あるいは中枢神経経路の障害などです。これは 神経障害性疼痛 に分類されます。
臨床ではしびれや異常感覚を伴うことが多く、画像所見だけでは判断しづらいため、理学療法士による身体診察や感覚評価 が不可欠となります。
3. 脳での処理異常による痛覚変調性疼痛
さらに、痛みが長期化することで「痛みのサイクル」が形成される場合があります。
脳が痛みの信号を正常に処理できなくなり、痛みが過剰に出現したり持続したりする状態 が生まれます。これが 痛覚変調性疼痛 です。
線維筋痛症や慢性腰痛症などが代表例で、心理社会的要因も関わりやすいため、全人的なリハビリテーションが重要となります。
臨床でのポイント:3つの痛みを見極める
このように「痛みを一つの線」として考えると、構造的な問題から脳での処理異常まで、連続したプロセス上に位置づけることができます。
臨床では、患者さんの痛みがこの線の どの部分に由来しているのか を見極めることが重要です。
例えば:
- スポーツ外傷後の急性期 → 侵害受容性が主体
- 椎間板ヘルニアに伴う坐骨神経痛 → 神経障害性が主体
- 長引く慢性腰痛 → 痛覚変調性が関与している可能性
実際には3つの要素が混在していることも多く、割合を推定しながら治療方針を立てる ことが求められます。
まとめ
- 2020年、国際疼痛学会は41年ぶりに痛みの定義を改定した
- 痛みを「一つの線」として神経経路で考えると、理解がシンプルになる
- 侵害受容性、神経障害性、痛覚変調性疼痛は連続したメカニズム上に位置づけられる
- 臨床では「患者の痛みが線のどこから生じているのか」を見極めることが重要
理学療法士・作業療法士にとって、痛みをこのように整理して捉えることは、評価の質を高め、より効果的な治療につなげる第一歩になります。