侵害受容性疼痛とは何か
侵害受容性疼痛とは、身体の組織に生じた損傷や炎症に反応して起こる痛み のことを指します。
最もイメージしやすいのは、外傷や急性の炎症に伴う痛みです。例えば、自転車で転倒して膝を擦りむいたとしましょう。このとき膝の皮膚や周辺組織が損傷し、出血や発赤、腫脹が起こります。そして触れると強い痛みを感じます。
この痛みは典型的な 侵害受容性疼痛 の一例です。つまり、外的な損傷が原因で侵害受容器が刺激され、その信号が神経系を通じて脳に伝わることで痛みが生じている のです。
炎症反応と化学物質の関与
侵害受容性疼痛の発生には、炎症反応 が大きく関与します。
損傷した組織では炎症が起こり、その過程でさまざまな化学物質が放出されます。代表的なものには以下が挙げられます。
- プロスタグランジン:血管拡張や感受性の亢進を引き起こし、痛みを強める
- ブラジキニン:炎症部位の痛覚受容器を直接刺激し、痛みを誘発する
- ヒスタミンやサイトカイン:炎症反応を促進し、二次的に痛みを助長する
これらの物質が侵害受容器に作用し、神経を通じて脳に信号が送られることで「痛み」という感覚が生じます。
痛みが軽減するプロセス
侵害受容性疼痛は、時間の経過とともに 自然に軽減する傾向 があります。
理由は次の通りです。
- 炎症が治まる
組織修復が進むと炎症を促進する化学物質の放出が減少する。 - 組織が修復される
損傷部位が修復されることで、侵害受容器の刺激が減少する。 - 神経の感受性が正常化する
損傷や炎症により一時的に過敏化していた神経が、治癒とともに元の状態に戻る。
このため、多くの急性外傷や炎症に伴う痛みは、治癒の進行とともに自然に改善していく のです。
臨床での侵害受容性疼痛の捉え方
理学療法士や作業療法士が臨床で患者を評価する際、侵害受容性疼痛は比較的理解しやすいタイプの痛みです。
特徴としては:
- 局所的で明確な痛み がある
- 圧痛点や腫脹、発赤 など客観的な所見を伴いやすい
- 画像検査に反映されやすい(骨折、靭帯損傷、関節炎など)
このため、急性外傷や術後のリハビリでは、侵害受容性疼痛の存在を前提としてアプローチを組み立てることが多くなります。
他の痛みとの違い
臨床で注意すべきは、すべての痛みが侵害受容性疼痛ではないという点です。
- 神経障害性疼痛:神経そのものに障害が生じて発生する痛み
- 痛覚変調性疼痛:中枢神経での痛覚処理の異常により生じる慢性的な痛み
これらと区別することで、患者の痛みをより正確に評価し、適切な治療戦略を立てることが可能になります。
まとめ
- 侵害受容性疼痛は、組織の損傷や炎症に伴う典型的な痛み
- プロスタグランジンやブラジキニンなどの化学物質が侵害受容器を刺激して発生する
- 時間の経過とともに、炎症の鎮静化と組織修復により軽減する
- 臨床では局所所見や画像検査に反映されやすく、評価しやすい痛みのタイプ
- 他の疼痛分類(神経障害性、痛覚変調性)と区別することが重要
侵害受容性疼痛を正しく理解することは、急性期のリハビリだけでなく、慢性痛の評価においても不可欠な第一歩となります。