「取り巻きは社会との関係を遮断する」——幸田露伴が警告する、リーダーを孤立させる“見えない壁”
「取り巻きは社会との関係を遮断する」とは
幸田露伴は『努力論』の中で、人間の努力だけでなく「人と人との関係」についても鋭く洞察しています。
この一節「取り巻きは社会との関係を遮断する」では、
リーダーを取り巻く人々の存在が、時にリーダー自身を孤立させてしまう危険性について語っています。
「事業主を取り巻き追従している連中は、その事業主に協力していることは間違いない。
しかし、彼らはいつの間にか事業主と外部社会とのあいだの障壁となってしまっている。」
つまり、善意や忠誠から始まった“支え”が、
知らぬ間にリーダーを外の世界から切り離してしまう——。
露伴はこの「見えない壁」に、リーダーの最大のリスクを見抜いていました。
「取り巻き」はなぜ生まれるのか
人は成功すると、自然と「取り巻き」が生まれます。
事業主やリーダーの周囲には、
- 気に入られようとする部下
- 都合の良い情報だけを伝える幹部
- 反対意見を避けて従順さを装う側近
が集まりやすくなります。
露伴は、この現象を“人間の宿命”として冷静に見ています。
最初は善意から始まる支援も、
時間が経つにつれて「保身」や「忖度」が混じり、
リーダーを現実から遠ざける絶縁体へと変わってしまうのです。
「情報の絶縁体」がリーダーを鈍らせる
露伴はこう述べています。
「取り巻き連中が事業主と社会とのあいだを隔ててしまうので、
事業主は経営者としての真価を発揮できなくなり、
事業と社会との関係も希薄なものになってしまう。」
つまり、「取り巻き」が作り出す最大の害は、情報の遮断です。
リーダーが社会の声を直接聞けなくなり、
社員・顧客・市場の“本音”が届かなくなる。
それによって、
- 経営判断がズレる
- 組織の方向性が現場と乖離する
- 社会の変化に気づくのが遅れる
といった弊害が生まれます。
露伴が生きた明治時代にも、すでにこの構造は見えていた。
そして、100年以上たった今でも、企業や政治の世界で同じ問題が繰り返されています。
「絶縁体」ではなく「伝達線」であれ
露伴は、取り巻きの存在を完全に否定してはいません。
彼は、彼らが本来果たすべき理想的な役割を次のように説明しています。
「取り巻き連中は、事業主と社会とのあいだに立って、
両者を密接に結びつける電話線や水道管のような役割を果たすべきものだ。」
つまり、取り巻き(側近や幹部)は「絶縁体」ではなく「伝達線」であるべき。
リーダーの考えを社会に伝え、社会の声をリーダーに届ける“循環の橋”となることが理想なのです。
しかし現実には、忠誠心や保身のあまり、
「伝えるべきことを伝えない」「都合の悪い情報を隠す」ようになり、
結果としてリーダーと社会を断絶させる絶縁体となってしまう。
露伴のこの比喩——「電話線」「水道管」「絶縁体」——は、
組織コミュニケーションの本質を見事に表しています。
「孤立するリーダー」が最も危うい
取り巻きによる情報遮断は、やがてリーダー自身の“感度”を鈍らせます。
外の声が聞こえなくなると、次第に判断が自己中心的になり、
「自分は正しい」と思い込むようになります。
こうして生まれるのが、孤立したリーダーです。
露伴が指摘したように、リーダーは社会と切り離された瞬間に、
経営者としての真価を失います。
リーダーシップとは、社会と接続し続ける感覚。
「外の空気」を感じ取る力こそ、真の経営の知恵なのです。
リーダーが孤立しないための3つの原則
露伴の教えを現代の経営や組織運営に応用するなら、
リーダーが“絶縁”されないために、次の3つの原則が重要です。
① 異なる意見を歓迎する
反対意見を封じる組織は、やがて衰退します。
リーダーが自ら「反論を歓迎する姿勢」を見せることで、
部下は本音を言いやすくなります。
② 社外との接点を絶やさない
顧客・パートナー・地域社会など、外部の声に触れる時間を意識的に確保する。
現場視察や対話の場を持つことで、社会との“線”を維持します。
③ 「伝える人」と「つなぐ人」を分ける
広報・秘書・側近が情報を独占しないよう、複数ルートを持つ。
内部と外部の間に、透明な流れをつくることが大切です。
まとめ:リーダーは「社会とつながる責任」を持て
幸田露伴の「取り巻きは社会との関係を遮断する」という言葉は、
現代のあらゆるリーダーにとっての警鐘です。
- 取り巻きはリーダーを支えるが、同時に孤立させる
- 理想は「絶縁体」ではなく「伝達線」
- 社会とのつながりを失うリーダーは、やがて真価を失う
露伴がこの章で伝えたのは、**「人は支えによって滅びることもある」**という逆説的な真理です。
リーダーシップの本質は、組織の中に閉じこもることではなく、
外の世界と誠実に関わり続けること。
社会とつながり続けるリーダーだけが、
本当に信頼されるリーダーになれる——
露伴の言葉は、100年を経てもなお、現代の経営現場に生き続ける知恵なのです。
