リハビリ関連

ハイドロリリースと徒手療法に共通するメカニズム:末梢神経の滑走性から考える痛み改善の可能性

ハイドロリリースで得られる効果と未解明のメカニズム

ハイドロリリースは、局所に薬液を注入することで症状を改善させる治療手技です。特徴的なのは、生理食塩水だけでも痛みが改善することがある点です。

なぜ薬効のない生理食塩水で痛みが取れるのか――。その正確なメカニズムはまだ完全には解明されていませんが、神経の滑走性が改善すること が一つの有力な仮説です。


末梢神経の滑走性とは

末梢神経は単に静止して存在しているわけではなく、関節の動きに合わせて 大きな距離を滑走 しています。

しかし、この神経の滑走性が局所的に低下すると、神経の一部に過度な伸張ストレスが加わり、痛みの原因となります。

つまり、神経の滑走不全=痛みの誘発因子 となるのです。


ハイドロリリースと滑走性の改善

Stefanieら(2018)の報告によると、ハイドロリリースを行うことで 神経の滑走抵抗が約21.4%減少 したとされています。

この結果は、ハイドロリリースが単に炎症を抑えるのではなく、神経周囲に液体を介在させることで物理的に滑走性を改善 している可能性を示唆しています。


神経は「伸び縮みしながら滑走する」構造

神経は単なるケーブルではなく、アコーディオンのように伸縮する構造 を持っています。

ラットの研究では、牽引や圧迫刺激がこの構造を障害し、機能低下を引き起こすことが報告されています。さらに、神経の滑走不全や癒着がこの障害の一因であることも示されています。

興味深いのは、ラットを用いた神経癒着モデルの研究です。

  • 1点だけを糸で結んでも癒着は起こりにくい
  • 2点間を結ぶことで効果的に癒着モデルが形成される

この知見を人間に当てはめると、神経の滑走性低下は1点の障害よりも、2点以上の障害(ダブルクラッシュシンドローム)で起こりやすい と考えられます。


臨床に応用できる視点

これらの研究背景を踏まえると、次のような臨床的な理解につながります。

  1. 1点の滑走不全がある場合
    → その部位に対してハイドロリリースを行うと、液体の介在により滑走性が改善し、その場で痛みが軽減する。
  2. 2点以上の障害(ダブルクラッシュ)で起きている場合
    → 部分的なハイドロリリースだけでなく、対象神経全体の滑走性を改善するアプローチ が必要。
  3. 徒手療法との共通性
    → 神経の滑走を意識したモビライゼーションや運動療法によっても、ハイドロリリースと類似した効果が得られる可能性がある。

徒手療法の重要性

ハイドロリリースは効果的な手技である一方、注射という侵襲を伴います。それに対し、徒手療法や運動療法は非侵襲的に神経滑走性を改善できる手段 です。

  • 神経モビライゼーション
  • ストレッチング
  • 末梢神経の動きを意識したエクササイズ

こうしたアプローチにより、神経の滑走を全体として改善できれば、より持続的でリスクの少ない治療効果を期待できます。


まとめ

  • ハイドロリリースは末梢神経の滑走性を改善し、痛みを軽減すると考えられている
  • 生理食塩水で効果が得られるのは、薬効ではなく物理的な滑走改善による可能性が高い
  • 神経は伸縮性と滑走性を持ち、癒着やダブルクラッシュによって障害を受けやすい
  • 臨床では、1点の滑走不全には局所介入、2点以上の障害には神経全体の滑走改善が必要
  • 徒手療法は非侵襲的に神経滑走性を改善できるため、理学療法における重要な選択肢となる
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理学療法士TAKAが自分の臨床成果を少しでも高めるために、リハビリ・運動学・生理学・物理療法について学んだ内容を発信。合わせて趣味の読書や自己啓発等の内容の学びも自己満で発信するためのブログです。