自己啓発

「権利と義務」だけで生きるな──幸田露伴『努力論』に学ぶ“人間関係がうまくいく生き方”

taka

「権利」と「義務」に縛られた現代

現代社会では、「権利」や「義務」という言葉があらゆる場面で使われます。
労働の現場では「働いた分だけ報酬を得るのは当然」、
社会の中では「自分の権利を主張するのは悪いことではない」と言われます。

もちろん、権利や義務を意識することは大切です。
それが社会の秩序を保ち、トラブルを防ぐためのルールでもあるからです。

しかし、幸田露伴は『努力論』の中で、あえてこの常識に異を唱えます。

「現代の人間は権利や義務の思想にとらわれており、一日に何時間の労働に対していくらの賃金を受け取るという契約をしている以上は、それ以上は働かないというように、非常に融通の利かない考え方をするのが普通になってしまった。」

露伴は、「権利と義務」にとらわれすぎる生き方が、人間の成長や人間関係をむしろ阻害していると警鐘を鳴らしています。


「契約通りに働く」だけでは信頼は生まれない

露伴の言葉を現代のビジネスに置き換えてみましょう。

たとえば、契約で「9時から17時まで働く」と決められているとして、
17時ぴったりに仕事を切り上げ、「それ以上は自分の仕事じゃない」と言い切る。
これは決して悪いことではありません。むしろ、労働法的には正しい行動です。

しかし、露伴が言うのは、「正しいこと=うまくいくこと」ではないという現実です。

「物事をあまりに『権利と義務』の基準で処理していくだけでは、決してうまくいかないのがこの世の中というものだ。」

世の中には、理屈だけでは測れない「人の気持ち」や「信頼の積み重ね」があります。
そこを無視して“自分の権利だけ”に固執すれば、やがて周囲との関係は冷たくなり、結果的に損をすることになるのです。


「やるべきこと」より「やりたいこと」へ

露伴の言葉の核心は、「義務の世界」から「自発の世界」へと意識を変えることです。

義務感だけで行動していると、心が疲れてしまいます。
一方、自分の意志で「やってあげよう」「力になりたい」と思って動くと、不思議と充実感が得られます。

職場でも家庭でも、誰かのために自発的に動く人は、周りから自然と信頼されます。
そうした人のもとには、助けが集まり、結果的により良い環境が生まれる。

露伴が言う「権利と義務を超える生き方」とは、まさにこの“自主性”のことなのです。


「融通の利かない人」が増える理由

現代においては、SNSなどを通じて「自分の権利を主張する」ことが簡単になりました。
一方で、他人への思いやりや、柔軟に対応する心の余裕が失われつつあります。

露伴が生きた明治時代にも、急速な近代化の中で同じような風潮があったのでしょう。
人々が「契約」「報酬」「義務」といった概念を学ぶ一方で、“人間らしい関係”を見失っていったのです。

露伴は、その危うさを見抜いていました。
だからこそ、「権利と義務という考えから抜け出せ」と強い言葉で呼びかけているのです。


「義務以上に動く人」が、最終的に信頼を得る

組織の中で最も評価されるのは、実は“契約通りに働く人”ではなく、
「少しでも良くしよう」と動ける人です。

露伴の考えは、単に「頑張れ」「もっと働け」という根性論ではありません。
むしろ、“自分の意志で少しだけ上を目指す心”を持てという、人間の成熟の話です。

「これくらいやれば十分だ」ではなく、
「もう一歩踏み込んだら、もっと良くなるかもしれない」

そんな心で動くことが、結果として「義務以上の成果」や「信頼の蓄積」につながります。


「権利と義務」の外にある、本当の幸福

露伴は、この章の結びで「権利と義務の基準だけでは、人との衝突が多くなる」と指摘しています。
まさにその通りで、私たちは日常の中で“正しさ”を振りかざして争うことが少なくありません。

しかし、「正しいかどうか」よりも、「相手がどう感じるか」「関係がどうなるか」を意識できる人は、争いを避け、調和を生みます。
そして、その調和の中にこそ、人間としての幸福があるのです。

露伴の言葉は、合理的な社会を生きる私たちに、「心のゆとり」を取り戻せと語りかけているようです。


おわりに:理屈よりも、心を持て

幸田露伴の『努力論』は、単なる勤勉のすすめではありません。
それは、人間としてどう努力するか──心の姿勢を問う書です。

「権利」や「義務」は社会を回すためのルールにすぎません。
しかし、そこに“思いやり”や“誠実さ”が加わってこそ、初めて本当の意味で「良い社会」になる。

露伴が残したこの一節は、今もなお、働くすべての人に響く“時代を超えたメッセージ”です。

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ABOUT ME
TAKA
TAKA
理学療法士/ビール
理学療法士として臨床に携わりながら、リハビリ・運動学・生理学を中心に学びを整理し発信しています。心理学や自己啓発、読書からの気づきも取り入れ、専門職だけでなく一般の方にも役立つ知識を届けることを目指しています。
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