リハビリ関連

末梢神経の滑走性を理学療法に応用する:短軸・長軸・アライメント治療の3本柱

末梢神経の滑走性と痛みの関係

神経にはある程度の「ゆとり」があり、関節の動きに合わせて滑走しています。しかし、この滑走性が低下すると局所的に神経が過度に伸張され、痛みが生じることがあります。

そのため、末梢神経由来の痛みに対する理学療法 では、神経の滑走性を改善することが重要なターゲットとなります。


理学療法での3つの治療アプローチ

末梢神経の痛みに対して理学療法が行うべき治療は大きく分けて以下の3つです。

  1. 短軸滑走治療(局所的な滑走改善)
  2. 長軸滑走治療(神経全体の滑走改善)
  3. アライメント治療(再発予防のための全身調整)

この3つを組み合わせることで、局所改善から再発予防まで一貫したプロセスを構築することが可能です。


① 短軸滑走治療

まずは 最も障害されている部位の滑走性を改善すること から始めます。

  • 方法:障害部位周囲の軟部組織を徒手的に操作し、神経と隣接組織との癒着を解放
  • 目的:局所的に神経の滑走を促進し、痛みを軽減
  • 臨床例:手根管症候群や肘部管症候群など、局所での絞扼が明確なケース

このアプローチはハイドロリリースにも通じており、神経周囲の環境を整えることで滑走性を高め、症状を改善する という点で共通しています。


② 長軸滑走治療

短軸で局所改善が得られたら、次は 対象神経全体の滑走性を高める段階 に進みます。

神経は中枢から末梢にかけて一本の連続体であり、全体としての動きが確保されなければ症状は再発しやすくなります。

長軸滑走治療には2つの代表的な方法があります。

  • テンション法:神経全体に張力を加えて伸張する
  • スライダー法:一方の末端を伸ばすと同時に、もう一方は緩めて神経を「スライド」させる

特に、障害部位が明確でない場合や、ダブルクラッシュシンドロームのように複数部位での絞扼が疑われる場合には、神経全体へのアプローチ が不可欠です。


③ アライメント治療

最後のステップは 全身的なアライメント調整 です。

神経の滑走性が一時的に改善しても、日常生活や運動で常に伸張負荷がかかる姿勢や動作を繰り返していれば、再び症状が出現する可能性があります。

  • 骨盤や脊柱のアライメント
  • 肩甲帯や四肢のポジション
  • 動作パターンの改善

これらを整えることで、神経に余分なストレスをかけない環境 をつくり、再発予防につなげることができます。


臨床でのプロセス

実際の現場での流れは次のように整理できます。

  1. 疼痛の原因を明確にする(末梢神経由来かどうかを評価)
  2. 短軸滑走治療で局所の滑走性を改善
  3. 長軸滑走治療で神経全体の滑走性を確保
  4. アライメント治療で再発を防ぐ

このプロセスを踏むことで、症状改善だけでなく、再発予防と長期的な機能改善 を実現できます。


まとめ

  • 末梢神経の痛みには「滑走性の低下」が関与する
  • 理学療法では「短軸滑走治療」「長軸滑走治療」「アライメント治療」の3つが柱となる
  • 短軸で局所改善 → 長軸で全体改善 → アライメントで再発予防、という流れが効果的
  • 徒手療法や運動療法によって、ハイドロリリースと同様の効果を得られる可能性がある

末梢神経の滑走性を理解し、それを臨床に応用できると、痛みの改善だけでなく患者さんの生活の質向上にも大きく貢献できます。

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taka
理学療法士TAKAが自分の臨床成果を少しでも高めるために、リハビリ・運動学・生理学・物理療法について学んだ内容を発信。合わせて趣味の読書や自己啓発等の内容の学びも自己満で発信するためのブログです。