運動器を構成する組織
運動器は、骨・軟骨(硝子軟骨、線維軟骨)・関節包・靭帯・腱・筋・神経といった多様な組織によって構成されます。神経以外の組織は主にコラーゲンとプロテオグリカンといった基質から成り、外力や反復する負荷に対してさまざまな反応を示します。
外傷性障害と微細損傷
運動器に強大な外力が加わると、
- 骨折
- 軟骨損傷
- 関節脱臼
- 靭帯損傷
- 腱断裂
- 肉離れ(筋膜間裂離損傷) などの急性外傷が発生します。
一方で、持続的な物理的ストレスが特定の組織に加わると、コラーゲン線維の断裂や延長といった**微細損傷(microinjury)**が生じ、慢性的な障害へと進行します。
炎症反応のプロセス
組織が損傷すると、白血球から炎症性サイトカインが放出され、次のような変化が生じます。
- 血管新生:新たな血管が形成される
- 神経侵入:痛みの原因となる神経線維が進入
- 血漿漏出:透過性が高まり腫脹が起こる
これらは臨床的に「炎症」と呼ばれ、熱感・腫脹・疼痛といった症状を引き起こします。
修復とリモデリング
炎症期の後には線維芽細胞が集まり、損傷部位にコラーゲン線維を産生します。初期には無秩序な配列ですが、生理的応力が加わることで不要な線維は吸収され、最終的には最適な配列へとリモデリングされます。ここで重要なのは、修復過程において過度な負荷を避けることです。臨床的には安静や運動制限が推奨される理由がここにあります。
負荷が継続した場合の病態
もし安静が守られずに負荷が加わり続けると、修復は正常に進まず次のような変化が生じます。
- 無秩序なコラーゲン増生 → 瘢痕形成や有痛性肉芽
- 血流豊富な部位では石灰化 → 骨棘形成や変形性関節症
- 骨では局所的な代謝障害 → 疲労骨折
- 軟骨ではプロテオグリカン産生阻害 → 軟骨変性、椎間板変性
これらは慢性の疼痛や機能障害を引き起こし、長期的なリハビリ介入を必要とするケースへと進展します。
臨床での示唆
理学療法や作業療法の現場では、
- 炎症期には安静・アイシング・負荷制限
- 修復期には漸増的な運動負荷
- リモデリング期には機能的ストレスを加えた運動療法 といったステージに応じた介入が重要です。
患者にとっては「動かした方が良いのか、それとも休むべきか」という判断が難しい場面も多いため、臨床家が炎症・修復・リモデリングのメカニズムを理解して指導することが欠かせません。
まとめ
運動器障害は、急性外傷だけでなく慢性的な微細損傷の蓄積によっても発生します。炎症から修復、そしてリモデリングに至る一連のプロセスを理解することは、リハビリテーションの方針決定に直結します。臨床現場では、安静と運動のバランスを見極めながら、患者にとって最適な回復をサポートしていくことが求められます。