はじめに
リハビリテーションの臨床では、筋力増強やバランス改善、痙縮の軽減を目的に**振動刺激(Vibration Stimulation)**が活用されることがあります。
振動刺激は、主に 全身振動(Whole Body Vibration: WBV) と 局所筋振動(focal Muscle Vibration: fMV) の2種類に大別され、それぞれ異なる生理学的作用と効果が期待されています。
本記事では、そのメカニズムとリハビリにおける応用可能性について解説します。
局所筋振動(fMV)のメカニズム
fMVでは、振動が直接的に筋や腱へ作用します。
- ゴルジ腱器官への刺激 → Ib求心性線維が活性化し、脊髄運動細胞の興奮性が抑制される。
- 筋紡錘への刺激 → Ia求心性線維が活性化し、介在ニューロンを介してα運動ニューロンが抑制される。
このように、fMVは脊髄レベルでの反射回路に作用し、痙縮抑制や運動制御改善につながると考えられています。
さらに、臨床的には以下の4つの効果が期待されています。
- 痙縮の軽減
- 機能的活動に必要な筋収縮の促通
- 運動制御を高める固有受容システムの刺激
- 感覚運動機能回復を目的とした固有受容トレーニング
実際に慢性期脳卒中患者を対象とした研究では、fMVを理学療法に組み合わせることで上肢リーチング動作の関節角速度や到達距離が改善し、動作のスムーズさが増したと報告されています。
全身振動(WBV)のメカニズム
WBVは、プラットフォーム上に立位や座位で乗り、全身に機械的振動を与える方法です。
- 筋紡錘とα運動ニューロンが刺激され、**緊張性振動反射(Tonic Vibration Reflex: TVR)**を誘発。
- これにより筋出力が高まり、姿勢制御やバランス改善に寄与します。
WBVは、下肢機能低下やバランス障害を持つ高齢者や脳卒中患者に適応されることが多く、姿勢保持力や歩行安定性の改善を狙った介入として報告されています。
臨床研究からみた効果
振動刺激の効果に関しては、研究ごとに異なる結果が報告されています。
- fMV:慢性期脳卒中患者の上肢機能改善に有効。リーチング動作の精度や速度の向上が確認。
- WBV:筋出力やバランス機能の改善報告がある一方、6分間歩行テストやTimed Up and Goテスト、Berg Balance Scaleでは有意差が認められなかった報告もあります。
この差異は、振動の周波数・強度・介入時間・実施中の運動課題などのパラメータ設定が大きく影響していると考えられます。
振動刺激の臨床応用のポイント
現段階で得られている知見を踏まえると、振動刺激を臨床で活用する際のポイントは以下の通りです。
- fMV:痙縮抑制や上肢運動機能改善に有効。特に慢性期患者への併用療法として有望。
- WBV:姿勢制御や筋出力改善に寄与。ただし、バランス評価指標で効果が出ない場合もあり、パラメータ設定を慎重に行う必要がある。
- 共通点:いずれも固有受容器を介した感覚入力を増大させ、中枢神経系の運動制御ネットワークを変化させる可能性がある。
まとめ
振動刺激は、局所筋振動(fMV) と 全身振動(WBV) の2種類に分類され、それぞれ異なる作用機序を持っています。
- fMVは痙縮抑制や固有受容機能改善を通じて、上肢や動作のスムーズさを高める。
- WBVは筋出力や姿勢制御の改善を狙えるが、効果はパラメータ依存的で、さらなる研究が必要。
臨床応用にあたっては、対象者の状態や目的に応じて刺激方法を選択し、運動療法と組み合わせることが重要です。