はじめに
温熱療法(Thermotherapy)は、血管拡張や血流促進を通じて疼痛緩和や組織修復を促す代表的な物理療法です。
一方で、炎症や腫瘍を悪化させるリスクがあるため、適応と禁忌を正しく理解することが不可欠です。
本記事では、温熱療法のメカニズム・表在温熱と深部温熱の違い・臨床応用の注意点について整理します。
温熱療法の作用メカニズム
寒冷療法と対照的に、温熱療法では以下の作用が生じます。
- 血管拡張・血流増加 → 酸素・栄養供給の促進
- 代謝活性化 → 組織修復の促進
- 筋緊張の低下 → 疼痛緩和・可動域改善
ただし、血流増加は浮腫や炎症の悪化、腫瘍の成長リスクを伴うため、炎症期や悪性腫瘍部位への使用は禁忌とされます。
表在温熱療法
皮膚や真皮層までの浅い部位を加温する方法です。
代表的な方法
- ホットパック(湿熱法が一般的)
- 赤外線療法
注意点とリスク
- 皮膚障害(低温熱傷)
- 温度と時間の関係が重要
- 44℃ → 6時間以上で障害
- 51℃以上 → 2〜3分で不可逆的損傷
- 圧迫によるリスク増大
- ホットパックが密着すると熱伝導が亢進
- 血流障害や低酸素状態により低温熱傷が生じやすい
湿性ホットパックは通常 約80℃ に加温されるため、必ずタオルを介し、皮膚の発赤を観察しながら実施することが大切です。
深部温熱療法
皮下組織より深部に作用する方法で、極超短波療法と超音波療法に分けられます。
極超短波療法
- 誘電率(発熱のしやすさ)と電気伝導率(電流の伝わりやすさ)に依存
- 水分の多い組織(血液・筋)は加温されやすい
- 脂肪の多い部位では浸透しにくく、効果が得られにくい
超音波療法
- 連続モード:温熱効果を目的とする場合に使用
- パルスモード:非温熱作用(機械的刺激)を目的とする場合に使用
- 吸収係数が高いのはコラーゲン組織(腱・靱帯・関節包) → 温熱効果が得られやすい
- 水分の多い組織は吸収が低いため、極超短波と使い分けが必要
禁忌とエビデンス
絶対禁忌
- 悪性腫瘍部位(腫瘍増殖のリスク)
- 炎症部位(浮腫や炎症反応を増悪)
- 循環障害部位(血流変化によるリスク)
臨床報告
- 全身浴(深部温39℃、50分)では血液濃縮が生じた報告あり
- 一方で、**末梢動脈疾患患者の足浴(39℃)**では運動療法と同程度の歩行距離改善効果が報告
このことから、「循環障害=一律禁忌」ではなく、疾患と部位を見極めた上で実施判断することが望ましいといえます。
まとめ
温熱療法は血流促進や疼痛緩和をもたらす一方、炎症や腫瘍部位ではリスクを伴う両刃の剣です。
- 表在温熱(ホットパック・赤外線):皮膚障害リスクに注意
- 深部温熱(極超短波・超音波):組織特性に応じた選択が必要
- 禁忌:悪性腫瘍・炎症部位・循環障害部位(ただし臨床判断で適応可能な場合あり)
臨床応用では、温度・時間・圧力・組織特性を考慮し、安全性を確保しながら使用することが重要です。