はじめに
理学療法・作業療法を含むリハビリ臨床において、電気刺激療法は疼痛軽減や筋収縮促通、神経可塑性促進を目的に幅広く使用されています。
しかし、安全性の確保や禁忌の理解が不十分な場合、熱傷や不快感などの有害事象を引き起こす可能性があります。
本記事では、**経皮的電気刺激(TENS・NMESなど)と経頭蓋直流電気刺激(tDCS)**を中心に、臨床応用のポイントを解説します。
経皮的電気刺激の安全性と注意点
皮膚に電極を貼付して電流を流す際は、**皮膚インピーダンス(電気抵抗)**を考慮する必要があります。
インピーダンスを減少させる工夫
- 電極貼付前に皮膚を水で洗浄する
- 剃毛の実施
- 日常的な保湿ケア(ただし刺激直前の保湿剤使用は避ける)
インピーダンスを下げることで、電流が通電しやすくなり、不快感や熱傷のリスクを軽減できます。
電極サイズと電流密度
- 小さい電極 → 電流密度が高まり、有害事象のリスク増大
- 電極の大きさを変更する際は刺激強度を再調整することが重要
創傷部位
- 創部はインピーダンスが変化するため、創傷治癒目的以外では創部を挟んでの電極設置は避けるべきです。
絶対禁忌と相対禁忌
電気刺激療法の代表的な禁忌は以下の通りです。
絶対禁忌
- ペースメーカーや植込み型電子機器付近
- 悪性腫瘍部位
- てんかん患者の頭頸部への非専門家による施行
ペースメーカー患者への応用
近年の報告では、下肢へのNMESであれば心電図への影響は少ないとされ、貼付部位に配慮すれば臨床応用の余地があります。ただし、必ずモニタリング下での実施が推奨されます。
悪性腫瘍患者への応用
一般的に悪性腫瘍は禁忌とされますが、近年は新たな知見も報告されています。
- 癌性疼痛に対する電気刺激 → オピオイド使用量が減少した報告あり
- 動物実験 → 神経・筋電気刺激により腫瘍縮小や細胞死が誘発された例も存在
ただし、腫瘍の種類や組織特性により反応は異なり、システマティックレビューでは効果が十分に検証されていないとされています。
そのため現段階では、悪性腫瘍が疑われる部位への刺激は避けるべきと考えられます。
経頭蓋直流電気刺激(tDCS)
概要
tDCS(Transcranial Direct Current Stimulation)は、弱い直流電流を頭皮上から流し、大脳皮質の活動を調整する方法です。
運動機能回復や認知機能改善を目的に研究が進んでいます。
安全性
- 2019年に日本臨床神経生理学会が安全性ガイドラインを公表
- 絶対禁忌は設定されていない
- 軽度の副作用(頭痛・熱感)が報告されるが、重大な副作用はなし
主なリスクと予防
- 熱傷のリスク → 電極を十分に密着させ、導電ジェルや生理食塩水を使用
- 刺激時間は30分以内
- 炎症や瘢痕部位を避ける
てんかん患者への応用
レビューでは「てんかん患者は禁忌」とされることが多いですが、近年のシステマティックレビュー(2021年)では有害事象なく発作頻度が低下した例も報告されています。今後さらなる研究が必要です。
まとめ
電気刺激療法は、疼痛管理からリハビリ支援まで幅広く応用可能ですが、安全性を確保するためには以下のポイントが重要です。
- インピーダンス低下 → 不快感や熱傷を防ぐ
- 小電極=電流密度増大リスク
- ペースメーカー・悪性腫瘍・創傷部位は禁忌(例外的応用も報告あり)
- tDCSは安全性が高いが、適応判断と副作用管理が必須
今後、癌性疼痛や神経疾患への新しい応用が期待されており、エビデンスの進展によって臨床活用の幅はさらに広がる可能性があります。