はじめに
腰痛や坐骨神経痛の治療において、**牽引療法(Traction Therapy)**は古くから用いられてきた物理療法の一つです。
しかし、その有効性については議論が続いており、適応や効果の解釈には注意が必要です。
本記事では、牽引療法のメカニズム・種類・腰痛や坐骨神経痛に対するエビデンスを整理し、臨床応用のポイントを解説します。
牽引療法のメカニズムと種類
牽引療法には大きく分けて 持続牽引 と 間歇牽引 の2種類があります。
持続牽引
- 長時間にわたり一定の力で腰椎を牽引
- 筋の持続的伸張によって緊張筋を緩め、腰痛を軽減する効果が期待される
間歇牽引
- 牽引と弛緩を繰り返す方法
- 軟部組織や滑液の循環改善を通じて、循環障害に伴う腰痛を軽減する効果が期待される
椎間板ヘルニアに対する効果
椎間板ヘルニアに伴う腰痛患者を対象とした研究では、
- 短期的には疼痛改善を認める報告あり
- しかし、長期的な影響や椎間板ヘルニアサイズの縮小効果は認められなかった
このことから、牽引療法は一時的な疼痛軽減には寄与する可能性があるものの、構造的な改善をもたらす治療ではないと考えられます。
坐骨神経痛に対する効果
坐骨神経痛を伴う腰痛患者を対象とした研究では、
- 牽引群で完全回復あるいは部分回復の割合が有意に高いと報告あり
- 一方で、坐骨神経痛を伴わない腰痛患者ではコントロール群と比較して有意差なし
このことから、坐骨神経痛を伴う症例では一定の有効性が期待できるものの、すべての腰痛患者に有効とは限らないといえます。
エビデンスの整理
牽引療法に関する報告をまとめると、以下のように整理できます。
- 有効な可能性がある症例
- 坐骨神経痛を伴う腰痛患者
- 短期的な疼痛軽減を目的とする場合
- 効果が限定的な症例
- 椎間板ヘルニア(長期的効果やヘルニアサイズ縮小は確認されていない)
- 坐骨神経痛を伴わない腰痛
つまり、牽引療法の効果は「腰痛の原因や合併症」によって大きく異なるといえます。
臨床応用のポイント
牽引療法を実際のリハビリ現場で活用する際には、以下の点に留意する必要があります。
- 対象の選択
- 坐骨神経痛を伴う腰痛患者であれば効果が期待できる
- 単純な腰痛患者への適応は限定的
- 補助的治療としての位置づけ
- 単独療法としてではなく、運動療法や薬物療法と併用することが望ましい
- 患者教育
- 効果が一時的である可能性を説明し、過度な期待を避ける
まとめ
牽引療法は、腰痛や坐骨神経痛に対して古くから行われてきた治療法ですが、その効果は症例により大きく異なります。
- 持続牽引:筋緊張を緩める作用
- 間歇牽引:循環改善を通じた疼痛緩和作用
- 椎間板ヘルニア:短期的効果あり、長期的改善は不明
- 坐骨神経痛合併腰痛:一定の有効性が示唆される
エビデンスとしては一貫した結果が得られていないため、患者の病態に応じた慎重な適応判断が重要です。