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膝関節脂肪体(IFP)由来アディポカインと軟骨変性:変形性膝関節症における二面性

はじめに

膝関節内の**脂肪体(Infrapatellar Fat Pad: IFP)**は、単なるクッション組織ではなく、サイトカインやアディポカインを分泌する能動的な内分泌器官としての役割を持っています。

特に、アディポネクチンレプチンといったアディポカインは、変形性膝関節症(Knee Osteoarthritis: KOA)の病態進行において、炎症促進作用と保護作用の両面性を示すことが知られています。

本記事では、IFP由来アディポカインと軟骨の相互作用について解説します。


アディポネクチン(Adiponectin)の作用

アディポネクチンはC1q-TNFスーパーファミリーに属し、炎症性シグナルを活性化する一方で、抗炎症作用も報告されています。

炎症促進的な作用

  • ヒトOA軟骨ではPGE2やMMP-13の増加と関連
  • 軟骨細胞においてNOやIL-6、CCL2/MCP-1の発現を誘導

これにより、軟骨基質分解や炎症反応の悪循環を助長します。

抗炎症的な作用

  • IL-1βによるMMP-13発現を抑制
  • TIMP-2(MMP阻害因子)の発現を促進

結果として、軟骨保護的に作用する可能性もあります。

臨床データ

メタアナリシスでは、OA患者では血中アディポネクチン濃度が高い傾向があると報告されていますが、OAの重症度との関連性は明確ではないとされています。


レプチン(Leptin)の作用

レプチンは、KOA患者のIFPから高濃度で分泌され、OA軟骨での発現も増加しています。

炎症・分解促進作用

  • MMP-3、MMP-13、TNF-α、NOの発現を増加
  • STAT1/3/5、MAPK(JNK, Erk, p38)、Akt、NF-κB経路を同時活性化
  • これにより局所の炎症性・分解性環境を強化

さらに、レプチン発現量は組織学的な軟骨損傷の程度と正の相関を示しています。

骨形成・代謝促進作用

  • TGF-β1の発現を誘導し、オステオファイト形成に関与
  • 一方で、TGF-β1を介してプロテオグリカン合成を促進する作用も報告
  • MAPK/ERK、IGF-1/IGF1R、Wnt/β-catenin経路を介して、成長板軟骨細胞の増殖・分化を促進

つまり、レプチンは炎症を促進する一方で、骨代謝や基質合成に関与する両義的な分子です。


アディポカインの二面性と病態意義

アディポネクチンとレプチンは、いずれも炎症促進と組織保護の両作用を持ち、KOA病態において相反する働きを示します。

この矛盾は、関節損傷による分子環境の変化に応答した結果と考えられています。
つまり、アディポカインは本来保護的に作用する可能性を持つ一方で、IFPが炎症化すると破壊的なシグナル増幅因子に転じるのです。


臨床応用の可能性

IFP由来アディポカインの研究は、局所免疫調節を標的とした新規治療法の開発に直結する可能性があります。

  • 炎症性シグナルを抑制する介入
  • アディポカインの抗炎症作用を強化する戦略
  • IFPの病的変化を制御するリハビリ・薬物療法

これらのアプローチは、従来の「軟骨のみを対象とした治療」から一歩進んだ、新しいKOA治療戦略につながるかもしれません。


まとめ

膝関節脂肪体(IFP)は、アディポカインを介して軟骨と密接に相互作用し、炎症促進と保護作用の二面性を持っています。

  • アディポネクチン:MMP-13やNOを誘導する一方、IL-1βによる分解作用を抑制する側面もある
  • レプチン:炎症性サイトカインや分解酵素を増加させるが、TGF-β1経由でプロテオグリカン合成を促進する作用もある
  • 病態依存的に作用が変化し、IFP炎症化により破壊的シグナルが増幅される

今後は、IFP由来アディポカインの炎症シグネチャーを理解し、治療標的化することがKOAの新たな治療戦略の鍵となるでしょう。

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taka
理学療法士TAKAが自分の臨床成果を少しでも高めるために、リハビリ・運動学・生理学・物理療法について学んだ内容を発信。合わせて趣味の読書や自己啓発等の内容の学びも自己満で発信するためのブログです。