「どんぶり勘定」では勝てない:カーネギーが確立した“コスト管理の原点”
製鉄業界の“どんぶり勘定”に驚愕
アンドリュー・カーネギーが製鉄業に本格的に関わるようになったとき、彼を最も驚かせたのは「数字の無関心」でした。
製造の現場では、どの工程にどれだけコストがかかっているのか――誰も正確に把握していなかったのです。
製造の各プロセスでコストが把握されていないのだ。
カーネギーは、地域の主要企業数社を調査しました。
すると、どの会社も例外なく“どんぶり勘定”。
原材料費、人件費、工程ごとのコストが不明確なまま、年度末の決算を待つしかない状態だったのです。
結果はどうなるか?
「赤字だと思っていたら黒字だった」「黒字と思っていたら赤字だった」――そんな話が珍しくなかった。
まるで真っ暗闇を進むモグラのように、経営者たちは数字を見ずに手探りで経営していたのです。
「見えない経営」では企業は育たない
カーネギーは、この状況を「とても耐えがたい」と感じました。
なぜなら、数字が見えなければ、判断も改善もできないからです。
経営とは意思決定の連続です。
原価、労働効率、在庫、売上――これらを正確に把握してこそ、経営者は「次に打つ手」を決められます。
数字のない経営は、羅針盤のない航海と同じ。たまたま黒字になっても、それは「運」に過ぎません。
「まるで地中をはいまわる目の見えないモグラだ。」
この強烈な表現には、カーネギーの危機感と怒りが込められています。
カーネギーの提案:「コストを見える化せよ」
カーネギーはすぐに行動を起こしました。
彼は、会社全体にコスト把握制度の導入を提案します。
「各プロセスごと、とくに各人がなにをやっているかを明らかにしよう。」
具体的には次のような仕組みでした。
- 工程ごとに材料費・人件費・作業時間を記録する
- 各部門ごとに原価を算出し、日々のデータを集計する
- 誰が資源を節約しているのか、誰が浪費しているのかを可視化する
- 成果を数字で示し、個人の努力と成果を明確に評価する
これにより、現場のムダが減り、社員の意識が変わり、会社全体の生産性が大きく向上しました。
数字は「人を責めるため」ではなく「成長のため」にある
カーネギーの目的は、社員を監視したり、責めたりすることではありません。
彼が目指したのは、**「数字を通して共に学び、改善する文化」**でした。
「見える化」は、ミスを恐れる仕組みではなく、改善を生む仕組みです。
数字が明確になることで、
- 改善すべきポイントが見える
- 成果が公正に評価される
- 努力が正当に報われる
という「健全な組織運営」が可能になります。
つまり、数字とは“叱責の道具”ではなく、“信頼の言語”なのです。
コストを制する者が、経営を制する
カーネギーのこの改革は、のちに現代の**原価管理(Cost Management)**の原型となりました。
彼は直感的に理解していたのです――
「数字を見ない経営は、経営ではない。」
彼の導入した仕組みによって、製鉄業の現場は大きく変わりました。
「どんぶり勘定」がなくなり、各部署が自らのコストを理解し、改善を競うようになったのです。
結果、彼の会社は業界トップの効率と利益率を誇るようになります。
現代企業でも、この考え方は変わりません。
利益は“売上”ではなく、“コストの理解”から生まれる。
数字を正確に把握することは、企業を健全に成長させる最強の武器なのです。
現代への教訓:「感覚経営」から「データ経営」へ
カーネギーのエピソードは、150年以上前の話ですが、驚くほど現代的です。
いまだに「感覚で経営している」中小企業や個人事業主は少なくありません。
しかし、今の時代こそ「数字を見える化」するツールやデータが揃っています。
ERPやBIツール、会計アプリ、AI分析――どんな規模の会社でも、正確なデータ管理が可能です。
問題はツールではなく、「数字に向き合う姿勢」です。
カーネギーのように、
- どの工程でコストが発生しているのか
- 誰がどんな成果を出しているのか
を日常的に把握し、改善につなげること。
これができる企業だけが、不況や市場変化の波を乗り越えられるのです。
まとめ:数字を味方にする経営を
アンドリュー・カーネギーの言葉は、すべての経営者・マネージャーに響きます。
「コストを知らぬ経営は、盲目の経営である。」
数字を見ずに成功した企業は存在しません。
コストを正確に把握することは、利益を守るだけでなく、
社員を成長させ、企業文化を健全に育てるための第一歩なのです。
