自己啓発

経営者は“神話の人”になるな:カーネギーが語る、トップと現場の交流が生む信頼の力

taka

「トップと現場の断絶」が組織を弱体化させる

アンドリュー・カーネギーは、『富の福音』の中で、近代産業社会の構造的な問題を鋭く指摘しました。

工場や鉱山では何千人もの労働者を集めるが、雇用主はかれらのことをほとんど知ることなく、労働者たちから見たら、雇用主は神話のような人物でしかない。

企業が成長し、組織が巨大化するほど、経営者と現場の距離は広がります。
トップは数字や報告書を通じて現場を把握しているつもりでも、実際の労働者の声や生活の実感は届きにくい。

その結果、経営陣は現場を「データ」としてしか見なくなり、
現場の人々は経営者を「遠い存在」――まるで神話や噂の中の人物のように感じるようになるのです。


交流の欠如が生む「相互不信」

カーネギーはこの断絶を、産業社会が抱える最も危険な問題と捉えていました。

雇う側と雇われる側に交流がない。
その結果、労働者という硬直した階層が形成され、労使がお互いに無知なため相互不信が生じる。

交流が途絶えれば、誤解と不信が生まれます。
経営者は「現場が理解してくれない」と感じ、現場は「上は現実を知らない」と不満を抱く。
こうして対立の構図が固定化し、組織全体に冷たい壁ができてしまうのです。

そして何より問題なのは、

「おなじ人間だという意識が失われていく」
という点にあります。

カーネギーは、労使の対立を単なる経済問題ではなく、人間の尊厳と共感の喪失として捉えていました。


共感の欠如は、誹謗中傷を生む

経営者と従業員が互いを知らないままでは、自然と誤解が生まれます。
カーネギーはその過程をこう描写しています。

相手に対する共感がないので、互いに誹謗中傷しあう。

つまり、理解の欠如は敵意を生みます。
お互いの立場や事情を知らないまま、感情的な批判だけが先行してしまうのです。

現代の企業でも、経営層の決断が「現場軽視」と見られたり、
現場の不満がSNSで炎上したりする構図は、この問題の延長線上にあります。

共感がなければ、組織は「同じ目的で働く仲間」ではなく、
「対立する陣営」に分裂してしまう――それがカーネギーの警告でした。


経営者の孤立は、経営判断を鈍らせる

労使の断絶は、人間関係の問題にとどまりません。
それは経営判断そのものにも悪影響を及ぼします。

カーネギーは、

「雇用主が労働者の現実を知らなければ、正しい判断はできない」
と考えていました。

現場を知らないまま決定した戦略は、机上の理論にすぎません。
その結果、労働条件や生産方針が現場の実情と乖離し、
やがて企業全体の生産性や士気を低下させてしまうのです。

リーダーが孤立するほど、組織は現実から遠ざかる。
だからこそ、トップには現場とのリアルな対話が欠かせないのです。


「共感的経営」が組織を強くする

カーネギーは、巨大産業を築きながらも、現場の声を大切にしました。
彼はたびたび工場を訪れ、労働者と直接話をすることを欠かさなかったといいます。

なぜそこまで交流を重視したのか――。
それは、共感のない経営は長続きしないと知っていたからです。

共感は「甘さ」ではなく、「理解に基づく判断力」です。
相手を理解することで、より現実的な決断ができる。
それが、彼が説いた“理性的な経営”の根幹でした。

現代でいえば、「エンゲージメント経営」「共感型リーダーシップ」に通じる考え方です。
数字ではなく、人の感情を理解できるリーダーこそ、真に強い組織をつくることができます。


変化が激しい時代だからこそ、「人と人のつながり」が要

カーネギーが警鐘を鳴らした「労使の断絶」は、150年後の現代にも当てはまります。
テクノロジーの発達で働き方が多様化し、リモートワークやAI導入が進む中、
人と人の距離は物理的にも心理的にも広がっています。

しかし、どんなに仕組みや技術が進んでも、
人間関係の断絶は組織の崩壊を招くことに変わりはありません。

経営者が現場の声を聞き、現場がトップの意図を理解する――。
その“往復の対話”こそ、変化の時代に組織を支える最大の基盤なのです。


まとめ:経営者は「見える存在」であれ

アンドリュー・カーネギーの言葉は、現代のリーダーにこう問いかけています。

「あなたは、部下にとって“顔の見える人”だろうか?」

組織が大きくなればなるほど、リーダーは現場から遠ざかります。
しかし、そこにこそ“戻るべき原点”があります。

トップが現場と語り合い、現場がトップを信頼する。
そのつながりが、利益を超えた「人間的な経営」を実現します。

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ABOUT ME
TAKA
TAKA
理学療法士/ビール
理学療法士として臨床に携わりながら、リハビリ・運動学・生理学を中心に学びを整理し発信しています。心理学や自己啓発、読書からの気づきも取り入れ、専門職だけでなく一般の方にも役立つ知識を届けることを目指しています。
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