からだの各部位

膝関節脂肪体(IFP)の病態メカニズム:KOA進行における炎症と組織間クロストーク

はじめに

変形性膝関節症(KOA)の病態は多因子的であり、機械的負荷・肥満・加齢・外傷などが複雑に関与しています。近年、単なるクッション組織と考えられてきた**膝関節脂肪体(Infrapatellar Fat Pad: IFP)**が、局所炎症や隣接組織とのクロストークを介してKOA進行に寄与していることが明らかになってきました。


IFPの免疫応答と炎症

  1. 異常荷重・軟骨損傷
    • 肥満や骨折、加齢による変形は軟骨損傷を引き起こす。
    • 損傷軟骨から**自己抗原(cartilage-specific autoantigens)**が放出される。
  2. 免疫活性化
    • 自己抗原がIFP内の免疫細胞を活性化。
    • 活性化免疫細胞がマクロファージ、リンパ球、単球として浸潤。
  3. 炎症性サイトカインとアディポカイン分泌
    • 活性化免疫細胞がIL-1β、IL-6、TNF-αを分泌。
    • IFP内の脂肪細胞も**アディポカイン(レプチン、アディポネクチンなど)**を放出。

👉 結果として、局所炎症環境が形成され、関節内組織の恒常性が崩れる


IFPと周囲組織のクロストーク

IFPは関節内で隣接組織と密接に接しており、炎症シグナルを介した双方向のやり取りが病態を進行させます。

  • 軟骨との相互作用
    • IFP由来の炎症性分子が軟骨細胞を刺激 → MMPs、NO、PGE2産生増加
    • 軟骨変性が進行
  • 滑膜との相互作用
    • IFPから分泌されたサイトカインが滑膜線維芽細胞を刺激 → 滑膜線維化・炎症増悪
    • 滑膜由来サイトカインが逆にIFP炎症を促進
  • 骨との相互作用
    • IFPマクロファージ由来TGF-βが骨硬化・骨棘形成を促進
    • 骨髄病変(BMLs)の進行に寄与

👉 IFPは「炎症のハブ」として働き、関節全体の病態悪化に波及。


KOAにおけるIFPの役割の二面性

  • 病態促進因子
    • 線維化や炎症が強いIFPは、疼痛・関節破壊を悪化させる。
  • 修復因子
    • 一方で、IFPは間葉系幹細胞(MSC)の供給源として再生医療的価値を持つ。
    • これらMSCは炎症環境下で免疫調節作用を発揮し、軟骨保護や再生に寄与する可能性。

臨床的意義

  1. 診断
    • MRIでIFPの体積・信号変化を評価することで、炎症や病態進行の予測が可能。
  2. 治療
    • サイトカイン・アディポカインを標的とした抗炎症療法
    • MSCや細胞外小胞(EVs)を利用した再生医療アプローチ
  3. 予防
    • 肥満管理や荷重コントロールが、IFP炎症や線維化予防につながる。

まとめ

膝関節脂肪体(IFP)は、

  • 免疫応答を介して局所炎症を増幅し、
  • 軟骨・滑膜・骨とのクロストークを通じてKOA進行を助長し、
  • 一方では再生医療の有力な細胞供給源でもあります。

そのためIFPは、KOAの病態理解・診断・治療の鍵となる組織と位置づけられます。

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taka
理学療法士TAKAが自分の臨床成果を少しでも高めるために、リハビリ・運動学・生理学・物理療法について学んだ内容を発信。合わせて趣味の読書や自己啓発等の内容の学びも自己満で発信するためのブログです。