政治・経済

『高市首相が語らなかった「PB黒字化」と財政の真実』

taka

高市首相が示した新しい財政方針

高市早苗総理大臣は、所信表明演説でプライマリーバランス、いわゆる「PB黒字化目標」について一切触れなかった。
その代わりに語られたのは、「成長率の範囲内に債務残高の伸びを抑え、政府債務対GDP比を引き下げていく」という方針である。
この一文は、実は非常に重要な意味を持っている。
つまり政府は、これまで固執してきた「PB黒字化」という呪縛から、一歩距離を置く姿勢を示したといえるのだ。


そもそもPB黒字化とは何だったのか

多くの人が忘れてしまった、あるいは初めから知らなかったかもしれないが、PB黒字化目標とは本来、政府債務対GDP比を下げるための手段だった。
政府債務対GDP比は、「政府債務 ÷ 名目GDP」で求められる。
この比率を下げるには、分母である名目GDPを成長させるか、分子である債務を抑えるしかない。
そして2000年代初頭、デフレに苦しむ日本では名目GDPが伸びなかったため、「支出を減らせばいい」という短絡的な発想でPB黒字化が唱えられたのである。


デフレ下の“緊縮スパイラル”

当時の日本経済はデフレに沈み、GDPデフレータはマイナス。
実質成長しても名目ではマイナス、つまり「経済規模が縮んでいる」状態だった。
その中で財政支出を絞れば、経済はさらに冷え込み、名目GDPも縮小する。
結果、債務対GDP比はむしろ悪化した。
政府は「債務を減らすために緊縮した」のに、その緊縮が債務比率を押し上げるという、皮肉な悪循環に陥っていったのである。


物価上昇がもたらす“名目の追い風”

現在、日本はサプライロス型インフレの中にある。
物価の上昇によって、名目GDPは拡大している。
これはつまり、政府債務対GDP比が自然と下がっていくことを意味する。
高市首相が述べた「成長率の範囲内」という表現が「実質GDP」ではなく「名目GDP」を指すとすれば、すでに財政目標は達成されつつあるともいえる。


“PB黒字化”から“名目成長”へ

重要なのは、今の日本に必要なのは支出削減ではなく、安定した名目成長の維持であるという点だ。
デフレからの脱却が進み、名目GDPが伸びれば、債務比率は自然と下がる。
つまり「財政再建」は、国民の生活を犠牲にして支出を減らすことではなく、経済を成長させることで実現する。

高市首相の発言は、その方向転換の兆しを示している。
PB黒字化という形式的な目標を超え、「持続的な成長と信認の両立」へと舵を切る。
それこそが、長年のデフレから抜け出すための、最初の一歩なのかもしれない。

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TAKA
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理学療法士/ビール
理学療法士として臨床に携わりながら、リハビリ・運動学・生理学を中心に学びを整理し発信しています。心理学や自己啓発、読書からの気づきも取り入れ、専門職だけでなく一般の方にも役立つ知識を届けることを目指しています。
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