『PB黒字化が日本をデフレに沈めた理由』
政府債務対GDP比率とは何か
政府の財政健全化を象徴する指標として、「政府債務対GDP比率」がよく語られる。これは、国の借金(政府債務)を国内総生産(GDP)で割った比率であり、経済規模に対してどれだけの債務を抱えているかを示す。比率を下げるには、分子である政府債務を減らすか、分母のGDPを増やすか、そのどちらかである。
PB黒字化目標という罠
2001年、日本政府は「プライマリーバランス(PB)黒字化目標」を導入した。目的は財政再建、つまり政府債務対GDP比率の引き下げだった。しかし、この政策は支出削減と増税を伴うものであり、結果として経済全体の需要を冷やした。政府最終消費支出や公的投資を減らし、さらに増税で民間の消費や投資も縮小させれば、当然ながら名目GDPは小さくなる。分母が小さくなれば、比率はむしろ上昇する。皮肉なことに、「債務比率を下げるための政策」が、その比率を上げてしまったのである。
デフレが経済を蝕んだ二十年
日本のGDPデフレータ(物価の総合的指標)は、1990年代後半から長らくマイナスが続いた。つまり物価が下がり続ける「デフレ」が常態化したのだ。名目GDPの成長が止まり、実質GDPが名目を上回るという異常な状態が続いた。デフレは企業の投資意欲を奪い、賃金上昇を抑え、経済全体を縮小させる。まさに、PB黒字化という政策がデフレを固定化させたといえる。
名目GDPの回復と債務比率の低下
2023年、日本はようやくデフレからの脱却を迎えた。サプライロス型のインフレという副作用を伴いながらも、名目GDPは拡大を始めた。すると不思議なことに、政府債務対GDP比率は自然に下がっていった。分母が成長すれば、分子を削らずとも比率は下がる。それこそが経済成長の力である。
いま捨てるべき古い目標
四半世紀にわたって続いたPB黒字化目標は、結果として日本をデフレに縛りつけた。支出を削り、増税を繰り返し、経済のエンジンを自ら止めてしまったのである。もう十分だ。今こそ、PB黒字化という「引き算の経済」から離れ、政府債務対GDP比率の引き下げという本来の目的を、名目GDPの拡大によって実現する時代へと進むべきである。
