リハビリ関連

顔面のSMAS(表在性筋膜系)とは?構造・機能・臨床での重要性をわかりやすく解説

taka

顔の構造を支える「SMAS」とは?

SMAS(Superficial Musculoaponeurotic System:表在性筋膜系)は、顔面の皮膚と深部構造の間に存在する線維性ネットワークです。
この層は主に広頚筋(platysma)耳下腺筋膜、そして頬部を覆う線維筋層から構成され、皮下脂肪と深部脂肪を隔てています。位置的には、頬骨弓(zygomatic arch)より下方、広頚筋の上方に存在します。

SMASは、顔の動きや表情を皮膚に伝達する“中間層”としての役割を果たし、顔のたるみや加齢変化にも深く関わります。1976年にMitzとPeyronieによって初めて詳細に記述されて以来、その定義や構造は長年議論されてきました。


構造と機能:5層構造の中の第3層

顔面は主に次の5層で構成されます:

  1. 皮膚(表皮と真皮)
  2. 皮下脂肪層
  3. 筋膜層(SMASを含む)
  4. 疎性結合組織または深部脂肪層
  5. 骨膜・深筋膜

SMASはこのうち第3層にあたり、表情筋の動きを皮膚に伝える“アポニューロティックマスク”として機能します。つまり、SMASがあることで、私たちは滑らかに笑ったり、怒ったり、驚いたりといった表情を作ることができます。

また、SMASは顔面の各部位で構造が異なり、鼻唇溝(nasolabial fold)より外側の領域では脂肪が多く柔軟で、内側では脂肪が少なく密な構造を持ちます。この違いが、顔の可動性や表情の豊かさに影響しています。


血管・神経支配

SMASは主に**顔面神経(第Ⅶ脳神経)**によって支配されています。
顔面神経は耳の下から出て、側頭枝・頬骨枝・下顎縁枝などの枝を形成し、SMASの深層を走行します。特に手術や注入療法(ボトックスなど)を行う際には、これらの神経損傷を避けるための解剖理解が不可欠です。

血流は**顔横動脈(transverse facial artery)**などが供給し、リンパは耳前・顎下リンパ節を経て頸部リンパ系へと流れます。


表情筋との関係

SMASは、以下の表情筋と密接に連結しています:

  • 眼輪筋(orbicularis oculi)
  • 口輪筋(orbicularis oris)
  • 前頭筋(frontalis)
  • 上唇挙筋(levator labii superioris)

これらの筋の収縮がSMASを介して皮膚に伝わることで、表情が生まれます。特に口輪筋や眼輪筋は、SMASの構造変化によりしわやたるみが目立ちやすくなるため、美容領域では重要なターゲットとなります。


臨床での意義:老化・手術・リハビリ

加齢による皮膚や脂肪の下垂は、SMASの弛緩と関係しています。美容外科で行われる**フェイスリフト(rhytidectomy)**では、SMASを引き上げることで顔全体の若返り効果を得ます。実際、約半数以上のフェイスリフト術において、SMASの操作が行われていると報告されています。

理学療法や顔面神経麻痺のリハビリにおいても、SMASの理解は欠かせません。例えば、ベル麻痺や重症筋無力症などではSMASの萎縮や線維化が生じ、表情の左右差や筋収縮の伝達異常を引き起こします。

また、慢性的な表情筋緊張やストレスによる顔面硬直も、SMASの過緊張や柔軟性低下が関係していると考えられます。理学療法士が表情筋リリースや顔面マッサージを行う際、この層を意識した介入はより効果的です。


まとめ

SMASは、単なる「顔の筋膜」ではなく、表情・加齢・美容・リハビリすべてに関わる重要な層です。
顔面の動きやたるみを理解する上で、この層をどれだけ正確に把握できるかが、臨床の質を左右します。

美容医療やフェイシャルリハビリに携わる専門職にとって、SMASの解剖学的知識は必須の教養といえるでしょう。

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ABOUT ME
TAKA
TAKA
理学療法士/ビール
理学療法士として臨床に携わりながら、リハビリ・運動学・生理学を中心に学びを整理し発信しています。心理学や自己啓発、読書からの気づきも取り入れ、専門職だけでなく一般の方にも役立つ知識を届けることを目指しています。
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