リハビリ関連

膝OAで膝伸展制限があると何が起きる?―等尺性大腿四頭筋運動中の膝蓋下脂肪体(IFP)の硬さと血行動態の変化

taka

膝OA(変形性膝関節症)では、**膝蓋下脂肪体(infrapatellar fat pad: IFP)**の炎症・線維化が疼痛の一因とされています。
過去の研究で、IFPの硬さやヘモグロビン動態(血流反応)がOA患者では低下し、局所的な低酸素(hypoxia)状態が線維化を助長する可能性が示唆されていました。

しかし、その「低酸素化を引き起こす要因」は明確でなく、
ある研究で 膝関節伸展制限(ROM制限) がIFPの微小循環反応にどのように影響するかを検証されました。


スポンサーリンク

🧪 研究デザイン

  • 対象:50歳以上の女性膝OA患者29名
    • 伸展制限群(ROM < 0°):16例
    • 非制限群(ROM > 0°):13例
  • 除外:K-L Grade IV、手術歴、外傷・神経疾患あり
  • 測定項目
    1. IFP硬さ(SWE:シアーウェーブエラストグラフィ)
    2. ヘモグロビン動態(NIRS:近赤外分光法)
      • 酸素化Hb(O₂Hb)
      • 脱酸素Hb(HHb)
      • 総Hb(cHb)
      • 酸素飽和指数(TOI)
  • 運動課題
    長座位・膝屈曲20°で50%最大強度の等尺性大腿四頭筋運動(IQE)
    10秒×10セット(各3秒休息)

📊 主な結果

指標非制限群伸展制限群備考
IFP硬さ(SWE)IQE中に有意に増加変化なし安静時は制限群の方が硬い
O₂Hb, cHbIQE中に低下 → 終了後に上昇(反応性充血)変化なしIFP酸素化の反応が欠如
TOI運動後に上昇変化なし血流回復が不十分
IFP硬さと酸素化の変化正の関連無反応機械的圧縮刺激の有無が関係

伸展制限のある膝では、IQEによるIFPの機械的変形と酸素化反応が起きにくい。


🧠 考察

① 伸展制限がIFPの機械的刺激を阻害

膝蓋下脂肪体は、膝伸展時に膝蓋腱・大腿骨・脛骨により圧縮→解放を繰り返す構造。
この圧力変化が**毛細血管の拍動(血流刺激)**を生み出す。

伸展制限があると、膝伸展位の力学的圧縮が不足し、
→ IFP内部の血流拍動が乏しい
→ 慢性的な局所低酸素
→ **線維化(fibrosis)**へ進行するリスク。


② IQEによる「反応性充血」が生じる条件

非制限群では、IQE中に一時的なO₂Hb・cHb低下(圧迫による虚血)→運動後に上昇(再灌流)。
この反応は健常な微小循環応答を反映。

一方、伸展制限群ではこの変化がみられず、
IFPの循環反応が抑制されている=線維化や硬化の進行状態が示唆される。


③ 臨床的意義

  • 膝OAの伸展制限そのものがIFPの低酸素化要因
  • IFP線維化→膝伸展痛・伸展制限を悪化させる「悪循環」
  • したがって、可動域制限の改善=IFP酸素化促進・線維化予防の第一歩

💪 臨床応用:理学療法の実践ポイント

フェーズ目標具体的介入
① 初期(炎症・疼痛)圧迫軽減・滑走性確保膝蓋骨・膝蓋腱下部の軽圧モビライゼーション、過伸展回避姿勢指導
② 可動域改善期伸展終末域の再獲得大腿四頭筋(特にVM)促通、ハムストリングス・腓腹筋ストレッチ、関節包前方の軽度リリース
③ 微小循環改善IFPの酸素化促進伸展位近くでの低負荷IQE(10秒×数セット)、痛みない範囲で拍動的収縮を繰り返す
④ 動作再教育機械的圧迫リズムの再構築歩行中の立脚後期伸展を強調、殿筋・股伸展筋の協調運動を組み込む

💡 重要ポイント:
「膝伸展可動域を確保した状態での大腿四頭筋収縮」こそが、
IFPの“酸素化ポンプ作用”を引き出す。


⚠️ 研究の限界

  • 対象は女性のみ → 性差不明
  • 負荷設定(50%最大IQE)は個体差あり
  • K-L重症度別の層別解析なし
  • 横断研究のため因果関係は推定段階

🩺 まとめ

項目結論
目的膝OAにおける伸展制限がIFP血流反応に与える影響を検討
結果伸展制限群はIFP硬さ・血流変化ともに乏しい
解釈伸展制限によりIFPの機械的刺激・酸素化が阻害され、線維化促進の可能性
臨床意義ROM回復→IFP酸素化→線維化予防、が治療連鎖の鍵
スポンサーリンク
ABOUT ME
TAKA
TAKA
理学療法士/ビール
理学療法士として臨床に携わりながら、リハビリ・運動学・生理学を中心に学びを整理し発信しています。心理学や自己啓発、読書からの気づきも取り入れ、専門職だけでなく一般の方にも役立つ知識を届けることを目指しています。
スポンサーリンク
記事URLをコピーしました