「やり抜く力」と「思考は現実化する」の闇:ビジネス書100冊読んだら“執念系”の主張がとんでもなかった話
「石の上にも三年」はビジネス書界の常識らしい
ビジネス書を読んでいると、やたらと登場するのが
「一つのことを信じてやり抜け」 というメッセージだ。
その代表格が、世界的ベストセラーのこの本。
『やり抜く力』:成功の鍵は「情熱×粘り強さ」
成功を決めるのは才能ではなく、情熱と粘り強さ。
『やり抜く力』p.2-3
著者アンジェラ・ダックワースは、アメリカ軍の超ハード訓練で
「誰が最後まで残れるのか」をガチ分析した。
結果——
才能はほぼ関係なし。
“やり抜く力”がすべて。
だから、
- 辛くても諦めるな
- 続けろ
- 一度始めたらやり遂げろ
というロジックだ。
ここまでは分かる。
現代的で研究ベースで、まあ常識的。
しかし——
ビジネス書界には、この“やり抜く系”を極限まで過激化させた怪獣が存在する。
『思考は現実化する』:信じれば不可能も可能になる(らしい)
信念を持って執着すれば、不可能を可能にできる。
『思考は現実化する』p.108
来た。
“根性で宇宙をねじ曲げるタイプ”の名著だ。
この本の要約は、タイトルそのまま。
思考は現実化する。以上。
主張の勢いがとんでもない。
スピリチュアル濃度が高すぎて、ジュラシック・パークに勝つ迫力がある。
カーネギーの“20年タダ働きさせた事件”がヤバすぎる
本書の中でも最強に意味不明だったのがコレ。
要約すると——
- ナポレオン・ヒル(著者)は新聞記者
- 鉄鋼王アンドリュー・カーネギーが3日3晩ノンストップで語り続ける
- 「20年かかるが、成功哲学を体系化する仕事やらない? 報酬はゼロね」
- 著者「やります」
- カーネギー「29秒で決断して偉い。1分以上かかったらクビ」
- 「同じ申し出を260人にしたが、お前が初めてだ」
……いや、全員断るだろ。
・金持ちが人を20年拘束
・報酬ゼロ
・3日3晩しゃべり続ける富豪
・260人に同じセリフを試す
全部意味がわからない。
このエピソードはほぼフィクションと考えるのが自然である。
さらにヤバいのが「V8エンジン 不可能なのに完成した事件」
ヘンリー・フォードの話も強烈だった。
要約すると——
- フォード「V8エンジン作って」
- 技師「理論的に不可能です」
- フォード「とにかくやれ!」
- 半年後 → 無理
- 1年後 → 無理
- フォード「いいからやれ!」
- ある日突然、完成
いったい、何が生じたのか。
『思考は現実化する』p.104
いや、こっちが聞きたい。
著者の説明は「フォードが強く信じたから」だが、
普通に考えて技師たちが血のにじむ工夫をしただけだと思う。
しかし、その部分は一切触れられない。
完全に“信念が物理法則を越えた話”にされている。
「日本にはいない? そんな経営者」→普通にいた
「まぁここまで極端な経営者は現代日本にはいないだろう」と思っていた。
しかし。
出来る出来ると言い続けると、出来る気分になってくる
『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』p.45
永守会長(日本電産)だった。
- 技術者全員を立たせる
- 「出来る」を100回言わせる
- まだ無理 → 1000回言わせる
完全にナポレオン・ヒル派。
極めつけはこれ。
信じる通りになるのが人生
同書 p.45
……完全に“思考は現実化する”である。
永守会長の座右の書、
たぶんヒルの本だ。
