デフレとインフレ──日本が直面する本質的な問題
国債発行とインフレの関係
国債をどれだけ発行しても財政破綻しない──これは貨幣システムの構造を見れば事実である。しかし、だからといって1,000兆円、2,000兆円と一度に発行すれば良いという話にはならない。理由は単純で、過度な国債発行は過度なインフレーションを引き起こすからだ。財政破綻とは別の次元で、インフレには現実的な上限が存在する。重要なのは、通貨量を経済の供給力に見合うレベルに保つことである。
インフレとデフレをどう理解するか
インフレ率が5%とは、100万円の購買力が1年後には95万円に相当することを意味する。反対にデフレ率が5%であれば、100万円が105万円分の購買力を持つようになる。だが、こうした数値の変化の裏にある原因は非常にシンプルである。「供給が需要を下回ればインフレになり、供給が需要を上回ればデフレになる」。需要と供給のバランスがすべてを決めるのであり、複雑な専門用語を使わずとも、本質はこの一点に尽きる。
デフレが経済にもたらす深刻な影響
「物価が下がるならいいじゃないか」と考える人もいるかもしれない。しかしデフレは経済にとって深い病のようなものだ。物価が下がるという期待は消費を遅らせ、消費の減少は生産の縮小につながる。生産が縮めば雇用が減り、賃金も下がる。この悪循環が長期化すれば、国全体が貧しくなる。実際、日本では20年以上のデフレにより、一人当たりの平均給与が約60万円も下落した。共働き世帯なら120万円の減少である。これは物価下落率を大きく上回る深刻な所得の喪失といえる。
日本が最も貧しい先進国になった理由
OECD加盟国の中で、日本はかつて最も豊かな国の一つだった。しかし、デフレが続いた20年の間に、経済規模も所得も世界に比べて大きく後退した。ニュースで取り上げられる実質賃金の下落は、このデフレがもたらした長期的なダメージの象徴である。賃金が上がらないのではなく、デフレ構造が賃金を押し下げ続けたと理解すべきである。
企業が投資しない理由と内部留保の拡大
デフレの環境では、企業も積極投資をしない。供給過剰の状況で設備投資を行っても利益は期待できないし、お金の価値が時間とともに増すため、企業にとっては投資より貯蓄のほうが合理的である。この行動の積み重ねが、企業の内部留保として蓄積される。日本企業の内部留保はすでに400兆円を超えており、デフレが企業行動そのものを変えてしまったことを示している。
