適切なインフレがもたらす経済再生のメカニズム
デフレから抜け出すための核心
これまで見てきたように、デフレは「供給が需要を上回る」ことで生じる経済の病である。ならば、その逆の状態──「需要が供給を上回る」環境を作れば、必ずインフレへと転じる。ここで重要となるのが、政府による財政支出である。財政破綻論が長年にわたり国民を縛ってきたが、実際には国債を発行して需要を押し上げなければ、日本経済は立ち直らない。デフレからインフレへ向かうまで国債を発行することこそが、最もシンプルで効果的な政策なのである。
インフレが企業行動を変える
インフレとは、「供給よりも需要が大きい」状態を指す。世の中がモノやサービスを求めているため、企業は設備投資をすれば収益を得られる。これまで内部留保として蓄えられてきた数百兆円の資金は、初めて投資へと動き出す。さらに、投資が増えれば手元資金が不足し、企業は銀行からの借り入れを再開する。銀行の融資が増えれば、新たな通貨が発行され、市中の資金量も自然と拡大する。ここに至れば、政府が国債を追加発行しなくても経済は自律的に成長を始める。
財政支出が引き金となる好循環
国債発行によって需要を押し上げれば、デフレは必ず終わる。インフレ局面に入ると、企業は将来の利益を見込み、設備投資を積極化する。投資が増えれば雇用が増え、賃金も上昇し、消費が活発になっていく。この正の循環は、政府の財政支出によって初めて引き起こされるものである。逆に言えば、財政支出を伴わない政策では経済は転換しない。アベノミクスが失敗した背景にも、この「市中への資金供給不足」があった。
よくある反論とその背景
「国債を増やし続ければインフレが暴走するのではないか」「財政赤字が将来世代の負担になるのではないか」──こうした反論は繰り返される。しかし、これらの多くは貨幣の仕組みを十分に理解していない立場から生じている。重要なのは、市場の供給力を大きく超える財政支出を避けることであり、そこを適切に管理すれば、国債発行は経済を立て直す強力な手段になる。需要が自然に伸び始める段階まで導けば、その後は民間の投資と銀行の貸し出しが経済を支えるようになる。現代の日本に必要なのは、まさにこの「転換点」を作るための財政行動である。
