消費増税はなぜ必要とされたのか
景気後退の中で行われた増税の背景
景気が悪化しているにもかかわらず実施された消費増税。その目的の一つには財政健全化があり、同時期にはMMTをめぐる論争も国内外で活発化した。
もしMMTの主張が正しいのであれば、日本のように自国通貨を発行できる国は財政赤字を恐れる必要がなく、増税という選択肢も必須ではない。しかし実際に増税が行われたのは、政府が長年示してきた財政状況の悪化と社会保障費の増大を踏まえた判断であったとされる。
社会保障費の急膨張と現役世代の負担
内閣府が公表する経済財政報告によれば、社会保障費は1990年度の11.6兆円から、2019年度には34兆円へと約3倍に増加している。歳出全体に占める割合も30%を超え、国の支出構造は高齢化に伴い大きく変化した。
本来、社会保障費は保険料で賄う仕組みだが、それでは現役世代の負担が過度に増すため、国債や税収も合わせて活用する形となっている。しかし国債は「将来世代への負担の先送り」とされるため、財政健全化の観点から消費増税が選択されたという説明が繰り返されてきた。
政府が挙げる三つの理由
財務省は、消費税を増税する理由として次の三点を挙げる。
第一に、消費税は所得税や法人税と比べて景気の変動を受けにくく、安定した税収が見込める点である。徴税する側から見ればメリットだが、所得が減っても定率で課税される点は、納税者にとって負担が重く感じられる側面もある。
第二に、消費税はモノやサービスの購入時に広く課されるため、現役世代だけでなく国民全体が負担を分かち合う形となり、公平性が高いという主張だ。
そして第三に、消費には課税されるが、貯蓄や投資には負担がかからないため、消費以外の経済行動を歪めにくいという点が挙げられる。
これらの理由を並べれば、一見合理的に見える。しかし裏を返せば、景気が悪化しても負担は変わらず、生活の苦しさが増す可能性があるという側面も見逃せない。
増収分の使い道と政治判断
消費税率を10%に引き上げるまでには多くの紆余曲折があった。10%への増税が決まったのは2012年の野田政権時代で、自民党が野党として合意した「社会保障と税の一体改革」が始まりである。
14年には税率が5%から8%に引き上げられたが、その後の10%への増税は2度延期され、2019年10月にようやく実施された。
当初の増収見込みは5.6兆円で、その4分の3を国債返済、残りを社会保障の充実に充てる計画だった。しかし自民党は選挙公約として使途を変更し、借金返済分を半分に減らし、1.7兆円を幼児・高等教育無償化などの少子化対策、1.1兆円を社会保障費に振り分けた。
背景には、14年の増税で実質GDPがマイナスに落ち込んだことがある。景気への悪影響を踏まえ、国民に直接メリットが見える使い方へと舵を切った形だ。
社会保障「充実」と「安定化」の違い
注意すべき点として、消費増税に関する説明では「社会保障に使われる」という言葉がしばしば用いられるものの、その中には二つの意味がある。
ひとつは医療や介護、子育て支援など目に見える形でサービスが向上する「社会保障の充実」。もうひとつは将来世代への負担軽減を目的にした「安定化」であり、実質的には借金返済を指す。
後者は国民生活の向上に直結するわけではなく、受益の実感が乏しい。増税によって得られた財源が、実際にどの用途に振り分けられたのかを慎重に見極める必要があるといえる。
