政治・経済

統合政府の視点が変える財政の常識

taka

政府と中央銀行を“ひとつ”として捉える

MMTを理解するうえで重要なのが「統合政府」という概念である。一般的には政府と中央銀行を別々の主体として考えるが、MMTの立場では両者は切り離せない存在だとみなされる。
通貨が流通し、決済手段として機能するためには、それが国家への納税手段として認められている必要がある。また政府が支出を行う際には、中央銀行が銀行との間で資金調整を行う。
この二つの役割が密接に結びついている以上、政府と中央銀行を完全に独立した主体として扱うことは現実的ではない。ここにMMTの出発点がある。

「1人あたり○万円の借金」という表現の誤解

統合政府に基づく視点で考えると、報道で頻繁に見かける「国の借金を人口で割る」という説明は本質から外れている。
統合政府と民間の二主体しか存在しない世界では、民間が保有する通貨は資産であり、統合政府から見れば負債である。これは相殺可能な関係であり、「民間の保有=政府の負債」というだけの話である。
そのため、「1人あたり896万円の借金」という表現は、MMTの観点では正しくない。民間に通貨が残るためには、政府が発行する通貨量が、徴税で回収する通貨量を上回っていなければならない。
つまり、一定の財政赤字はむしろ必要であり、財政黒字は民間側の赤字を意味する。「誰かの赤字は誰かの黒字である」というMMTの基本原則がここにある。

景気悪化で止まる財政支出という矛盾

日本では不況期に財政出動が求められる場面でも、「これ以上財政赤字を増やせない」という声が必ず聞こえてくる。
たとえばコロナ禍では、当初30万円の限定給付という案が検討された。所得制限や給付対象を絞り込む議論が出た背景には、「支出を抑えたい」という緊縮的な発想が働いていたといえる。
しかし、不況時に財政が渋れば、経済はさらに冷え込み、民間に通貨が残らず消費も投資も進まない。ここに従来の財政観との矛盾が生じる。

MMTが支持する「機能的財政論」

この従来の発想とは対照的に、MMTが重視するのがアバ・ラーナーの「機能的財政論」である。
これは、財政政策は財政収支や債務残高ではなく、「完全雇用」と「物価安定」という経済目標を中心に決めるべきだという考え方である。
統合政府は通貨を発行し、徴収し、必要に応じて破棄する力を持つ。だからこそ、非自発的失業を解消し、物価を安定させる責任があるとされる。
この視点では、政府債務がどれほど溜まっているかは政策判断の中心にはない。不況時は財政を拡張し、インフレが過度に進めば緊縮へ転じればよい。
つまり、「数字としての財政赤字ではなく、経済の状態こそが財政政策の基準となる」という発想への転換である。

統合政府が映し出す全く新しい財政観

MMTが提示するのは、財政を単なる“家計の延長”として捉える考え方ではなく、貨幣の発行主体としての国家の機能を正しく認識したうえで、最適な政策判断を行うという姿勢である。
民間に十分な通貨が供給されなければ経済は回らず、失業も増える。逆に通貨が過剰であればインフレを招く。
統合政府の視点は、この調整の中心に「財政」と「貨幣」を一体で捉える新しい枠組みを与えてくれる。
いま必要なのは、赤字という数字に怯えることではなく、どの状態が国全体にとって健全かを見極める視点だといえる。

スポンサーリンク
ABOUT ME
TAKA
TAKA
理学療法士/ビール
理学療法士として臨床に携わりながら、リハビリ・運動学・生理学を中心に学びを整理し発信しています。心理学や自己啓発、読書からの気づきも取り入れ、専門職だけでなく一般の方にも役立つ知識を届けることを目指しています。
スポンサーリンク
記事URLをコピーしました