リハビリ関連

TKA後の膝関節可動域制限に関わる膝蓋下脂肪体(IFP)の役割と臨床で意識すべきポイント**

taka

TKA後の膝屈曲可動域に影響する膝蓋下脂肪体(IFP)の重要性とは

人工膝関節全置換術(TKA)は、除痛効果と長期成績の安定性から、膝関節疾患患者のQOL向上に大きく寄与してきました。特に日本では、正座や床上動作など深屈曲を要する生活文化が残っているため、TKA後にどれだけ膝関節可動域を獲得できるかは、患者の満足度に直結する重要なポイントです。

TKA後の膝関節可動域に影響する因子は多岐にわたります。原疾患の種類や術前の変形・拘縮、使用インプラント、術式、さらに術後リハビリの質などが知られています。しかし軟部組織に注目すると、大腿四頭筋の硬さ、膝蓋靭帯や外側膝蓋支帯の短縮と並び、膝蓋下脂肪体(Infrapatellar Fat Pad:IFP)の柔軟性低下も重要な要素として挙げられます。

本記事では、**臨床家がTKA後の可動域制限を評価する際に知っておくべき「IFPの動態」**について整理し、治療アプローチの視点にも触れていきます。


IFPの構造と役割:屈曲時の“動き”が鍵になる

膝蓋下脂肪体(IFP)は、膝蓋靭帯の深部、脛骨近位前面の間隙に位置する軟部組織で、関節包前方を満たすように存在しています。柔らかい脂肪組織でありながら、膝関節の動きに伴い複雑に変形・移動することで、関節の滑走性に寄与している点が大きな特徴です。

特に膝関節屈曲時には、以下のような動態が起こります。

  • 膝蓋靭帯が後方へ移動
  • 脛骨前面との距離が変化
  • その圧迫を受けてIFPが深部へ押し込まれるように移動

この「IFPの後方移動(深部移動)」は、屈曲可動域を確保するために不可欠です。
したがって、IFPの滑走性が低下すると、機械的な抵抗として膝屈曲制限の一因になると考えられています。


TKAに伴うIFPの変化:なぜ柔軟性が低下するのか

TKAでは術野の展開を確保するため、約88%の症例でIFPの一部が切除されると報告されています。
しかし、部分切除や術中の牽引・圧迫といった侵襲はIFPにとって少なからぬストレスとなります。

術後に生じやすいIFPの変化

  1. 線維性変化(Fibrotic change)
    • IFPが損傷を受けると、治癒過程で線維化が進行する
    • 結果として、柔軟性と可動性が低下する
  2. 滑走不全(Mobility restriction)
    • 深部への移動が阻害され、屈曲時の膝蓋靭帯—脛骨前面のクリアランスが確保できない
  3. 疼痛の持続や違和感の原因
    • IFPは神経分布が豊富で、線維化は痛みの一因にもなる

先行研究では、IFPを切除した群では屈曲可動域が減少するとの報告もあり、術後ROM獲得の一つの鍵がIFPにあることが示唆されています。


TKA後のどの時期にIFPの動態低下が起こるのか?

文献では「術後早期からIFPの柔軟性低下が起こり得る」とされていますが、実際の臨床では、どのタイミングで動態低下が顕在化するのかは明確ではありません。

しかし、臨床的には以下のような印象を持つケースが多いのではないでしょうか。

  • 早期リハビリ期(術後1〜2週):
    屈曲時に膝蓋靭帯周囲の強い突っ張り、前方の圧迫感を訴える
  • 術後1〜2か月:
    関節全体の腫脹が落ち着いても「何となく前方がつかえる」感覚が残る
  • 術後3か月以降:
    ROMがある程度頭打ちになり、深屈曲時に明らかな硬さを感じる

これらは、
IFPの滑走不足や線維性変化が進行している可能性
として捉えることができます。


臨床での示唆:IFPを“評価し、動かす”という視点

TKA後の屈曲制限に対しては、筋の柔軟性・瘢痕組織・関節包など多角的な評価が必要ですが、IFPは見落とされがちな要素です。

評価のポイント

  • 膝蓋靭帯下の圧痛や硬さ
  • 屈曲時の前方のつかえ感
  • 膝蓋靭帯の前後方向の滑走性低下
  • 伸展位での前面軟部組織の硬さ

介入の方向性

  • 膝蓋靭帯周囲のモビライゼーション
  • 伸展位と軽度屈曲位でのIFPストレッチング
  • 早期からの膝蓋骨—膝蓋靭帯—脛骨前面の滑走性改善
  • 深屈曲を必要とする生活動作に合わせた機能的訓練

IFPはデリケートな組織で過剰刺激には注意が必要ですが、適切なモビライゼーションやポジショニングにより滑走性を改善できる可能性があります。


まとめ:IFPはTKA後リハビリの重要な「見落としポイント」

TKA後の屈曲可動域は、患者のQOLに直結する重要なアウトカムです。その獲得には、筋・靭帯・関節包だけでなく、膝蓋下脂肪体(IFP)の滑走性と柔軟性を考慮することが欠かせません。

  • IFPは術中侵襲により線維化しやすい
  • 動態低下は屈曲制限の一因となる
  • 術後早期から評価・介入することが重要
  • 臨床では前方の硬さや滑走不全を丁寧に観察する

TKA後リハビリを行う臨床家にとって、IFPへの理解はより質の高い治療計画につながります。

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ABOUT ME
TAKA
TAKA
理学療法士/ビール
理学療法士として臨床に携わりながら、リハビリ・運動学・生理学を中心に学びを整理し発信しています。心理学や自己啓発、読書からの気づきも取り入れ、専門職だけでなく一般の方にも役立つ知識を届けることを目指しています。
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