『中国経済の正体と国家資本主義に潜む巨大な罠』
繁栄の裏にある異質なシステム
世界第2位の経済大国、中国。近年、その強硬な外交姿勢には批判が集まる一方で、安価で高性能なEVや先端技術製品が世界を席巻している事実は無視できない。一体、これほどの競争力はどのように生み出されているのか。その背景には、日本や欧米とは根本的に異なる「国家資本主義」というシステムが存在する。
通常、日本などの資本主義国家では、政府が国債を発行して財源を確保する。そのため、政府債務対GDP比などが財政健全性の指標となる。対して中国の国債発行額はGDP比で約20%と、一見すると極めて健全に見える。しかし、この数字を鵜呑みにしてはならない。中国政府は国債という正式な手段ではなく、全く別のルートで資金を動かしているからである。
政府と銀行が一体化した「打ち出の小槌」
そのカラクリは、政府による市中銀行への「直接命令」にある。中国の銀行の約8割は国有銀行であり、彼らは政府の意向に逆らうことができない。政府が「EV産業へ資金を投入せよ」「不動産開発を進めよ」と号令をかければ、採算など度外視で融資が実行される。
赤字企業であろうと、返済の見込みがなかろうと、資金は無限に供給される。これは市場経済のルールを無視した、事実上の「通貨発行」である。中央銀行の独立性が保たれている西側諸国とは異なり、権力者が通貨供給を自在に操るこのシステムこそが、急速な産業拡大の原動力となっているのだ。
隠された巨額債務とLGFVの闇
この歪みは地方財政にも及んでいる。中国の地方政府は表向きの債務を低く抑えるため、「LGFV(融資平台)」と呼ばれる別会社を利用している。インフラ開発などの赤字事業をこの別会社に背負わせることで、地方政府自体の帳簿は綺麗に見せかけているのだ。
しかし、その実態は「隠れ債務」の山である。銀行の不良債権やLGFVが抱える負債を合わせれば、その総額は3300兆円以上とも言われている。見かけ上の繁栄の下には、天文学的な借金が埋まっているといえるだろう。
歪んだ市場とふたつの資本主義
無尽蔵の資金投入は、市場に「ゾンビ企業」を乱立させる。EV業界における過剰生産や品質低下、環境を無視したレアメタル採掘などは、その典型的な弊害である。採算を無視した安売り競争は世界市場を混乱させ、国内には巨大な不動産バブルの残骸を生み出した。
もちろん、自国通貨を持つ中国が直ちに財政破綻することはないだろう。しかし、効率やモラルを無視した成長は、やがて技術の停滞と社会の硬直を招く。
一方で、我々西側諸国の「株主資本主義」もまた、完全な正解とは言えない。実体経済よりもマネーゲームを優先し、格差を拡大させる構造は、多くの国民を疲弊させている。国家が全てを統制する中国のシステムも、利益のみを追求する西側のシステムも、どちらも極端に偏っているといえるのではないだろうか。
本当に目指すべきは、実体経済と国民生活を最優先にする「中道」の経済であるはずだ。中国経済の危うさを他山の石とし、我々もまた、あるべき経済の姿を問い直す時期に来ている。
