自己啓発

『消費税は間接税ではない?アダム・スミスの誤解と日本の賃金』

taka

消費税に隠された「定義」の矛盾

私たちが普段、当たり前のように支払っている消費税。多くの人はこれを「間接税」だと認識しているだろう。消費者が負担し、お店が預かって代わりに納める。この仕組みに疑問を持つ人は少ない。

しかし、法的な側面から見ると、実は消費税は「直接税」としての性質を帯びている。税法上、納税の義務を負っているのはあくまで「事業者」であり、消費者ではないからだ。ではなぜ、国はこれを間接税として説明するのか。そこには「転嫁(てんか)」という経済学的な条件が深く関わっている。

国税庁の資料には、間接税の定義として「税負担が消費者に転嫁されることが予定されているもの」といった旨の記述がある。つまり、お店が税分を価格に上乗せし、最終的に消費者がその代金を支払うという「値上げ」が成立して初めて、間接税という理屈が成り立つのである。だが、現実のビジネスにおいて、全ての事業者が価格転嫁を完璧に行えているわけではない。ここに、法律と経済学の大きな乖離が存在するのだ。

250年前の亡霊、アダム・スミスの罪

この複雑なねじれの起源を辿ると、ある一人の人物に行き着く。「経済学の父」と呼ばれるアダム・スミスである。彼が名著『国富論』を記したのは1776年。今から約250年も前のことだ。当時のイギリスにはまだ所得税が存在せず、国民の所得に直接課税する手段が乏しかった。そこでスミスは、支出(消費)に課税することで、間接的に所得へ課税するという論法を用いたのである。

さらに、欧米の言語には「税を納める(納税)」という専用の動詞がなく、「支払う(Pay)」という言葉で代金支払いと混同されやすい背景もあった。アダム・スミスの時代に作られた「代金の支払いがすなわち税負担である」という古い定義が、現代の日本の消費税論争にも色濃く影を落としているといえる。

「間接ローン」という奇妙な理屈

この「転嫁」の理屈がいかに奇妙か、住宅ローンに置き換えて考えてみよう。ある会社員がローンを組んで家を買い、毎月返済しているとする。このとき、その会社員に給料を支払っている会社は、「間接的にローンを払っている」と言えるだろうか。

経済学的な「転嫁」の論法を使えば、給与という形で資金が移動している以上、会社は「間接ローン」を払っていることになる。しかし、常識的に考えれば、債務者はあくまで会社員本人であり、会社には何の返済義務もない。消費税もこれと同じである。事業者が負う納税義務を、消費者が「間接的に払っている」とするのは、法的な債権債務の観点からは無理があるのだ。

賃上げを阻む「粗利税」の正体

結局のところ、消費税が直接税か間接税かという議論は、定義が異なる土俵で争っているため、永遠に平行線をたどる。重要なのは、その実態が何であるかだ。

消費税の正体、それは売上から仕入れを引いた利益、すなわち「粗利(あらり)」にかかる税金である。企業の利益には、通常「法人税」がかかるが、これは人件費などを差し引いた「最終利益」に対する課税だ。対して消費税は、人件費を差し引く前の「粗利」そのものに課税される。gross profit vs net profit diagramの画像

これが何を意味するか。企業が賃金を上げようとすれば、その原資となる粗利に対し、容赦なく消費税がかかってくるということだ。つまり、消費税は構造的に「雇用のコスト」を増大させ、賃上げを妨害する性質を持っているといえる。私たちが直視すべきは、間接税という名の幻想ではなく、この「粗利税」としての冷徹な事実なのである。

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ABOUT ME
TAKA
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理学療法士/ビール
理学療法士として臨床に携わりながら、リハビリ・運動学・生理学を中心に学びを整理し発信しています。心理学や自己啓発、読書からの気づきも取り入れ、専門職だけでなく一般の方にも役立つ知識を届けることを目指しています。
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