創傷治癒は大きく「止血期」「炎症期」「増殖期」「成熟期」の4つの段階に分けられます。その最初のステップである 止血・炎症期(hemostasis/inflammatory stage) は、損傷を受けた組織が修復へ向かうための準備段階であり、リハビリテーションに関わる私たち臨床家にとっても理解しておくべき重要なプロセスです。
本記事では、止血・炎症期のメカニズムを整理し、臨床現場での観点から解説します。
1. 損傷直後に起こる「止血反応」
ケガをすると、まず血管が収縮し出血を抑えようとします。その後すぐに血小板が活性化し、血管内皮下のコラーゲンと結合して「一次止血」が始まります。さらに「二次止血」と呼ばれる凝固カスケードの活性化が起こり、フィブリン網が形成されることで安定した血栓が作られます。
この一連の流れが「止血期」であり、出血を抑えるだけでなく、創部の修復に必要な細胞を呼び込むための足場づくりにもなっています。
2. 炎症期で働く細胞たち
止血が完了すると、すぐに炎症期が始まります。ここで中心的な役割を果たすのが 好中球(neutrophils) です。
通常、健常な皮膚には好中球は存在しませんが、損傷が生じると血管から遊走して創部に集まります。その誘因となるのは インターロイキン1(IL-1) や 腫瘍壊死因子α(TNF-α)、さらには細菌由来の毒素です。
好中球は、活性酸素種(ROS)や抗菌ペプチド、プロテアーゼなどを放出し、細菌や壊死組織を分解・除去します。これは組織修復に適した環境を整えるための重要なステップです。
3. マクロファージによる清掃と次の準備
好中球の役割が終わると、それらはアポトーシス(計画的細胞死)や壊死を経て除去されます。このとき登場するのが マクロファージ です。マクロファージは死んだ好中球や細胞残骸を貪食するだけでなく、成長因子を放出し、次の「増殖期」への橋渡しを行います。
つまり、炎症期は単なる「炎症反応」ではなく、組織修復に必要な清掃活動と準備期間なのです。
4. 炎症期の臨床的意義
炎症期は一般的に72時間程度で収束すると言われています。この段階での過剰な炎症は、組織修復を遅延させたり瘢痕形成を助長するリスクがあります。一方で、不十分な炎症反応は感染リスクを高め、適切な治癒を妨げます。
リハビリ現場では、以下の視点が重要です。
- 急性期の腫脹や熱感は炎症反応の一部であることを理解し、必要に応じてRICE処置や圧迫療法を併用する。
- 安静のバランスを取ること。完全な不動化は治癒を妨げる一方で、過度な負荷は炎症を長引かせる可能性がある。
- 観察力を持って炎症の「正常な経過」と「異常な炎症(感染兆候)」を見分ける。
まとめ
創傷治癒の第一段階である「止血・炎症期」は、単なる出血の停止や炎症ではなく、修復に向けた環境整備のプロセスです。
- 止血期では血小板と凝固カスケードが働き、出血を抑えると同時に修復の土台を作る。
- 炎症期では好中球が細菌や壊死組織を除去し、マクロファージが清掃と増殖期への準備を担う。
- 臨床現場では炎症反応の「適切さ」を評価し、早期回復へつなげる視点が重要。
このメカニズムを理解することで、リハビリ介入のタイミングや方法をより適切に選択でき、患者の治癒を支援することができます。