創傷治癒は「止血・炎症期」に続いて 増殖期(proliferation phase) に移行します。
この段階は 3〜21日間 にわたり、失われた組織を再構築していくプロセスです。
本記事では、増殖期のメカニズムと臨床現場における意義を整理します。
1. 肉芽組織の形成
炎症期で整えられた創部環境には、線維芽細胞が集まり 肉芽組織(granulation tissue) を形成します。肉芽組織はコラーゲンを産生し、損傷部を補強する役割を担います。
この時期の創部は、臨床的に赤みを帯びた柔らかい組織として観察されます。肉芽組織がしっかり形成されることは、その後の瘢痕成熟にも直結します。
2. 血管新生(neovascularization)
増殖期のもう一つの重要な特徴は 血管新生 です。新しい毛細血管が形成されることで、酸素や栄養が供給され、治癒プロセスを維持します。
このメカニズムを支えるのが 血管内皮増殖因子(VEGF) です。VEGFは内皮細胞を刺激して血管の新生を促し、肉芽組織の維持に不可欠な役割を果たしています。
3. 上皮化(re-epithelialization)
創の表面では 上皮細胞(ケラチノサイト) が遊走し、傷口を覆っていきます。これが「上皮化」と呼ばれる現象です。
上皮化が順調に進むと、外部からの感染リスクが低下し、創は閉鎖に向かいます。逆に、この過程が遅れると治癒が停滞し、慢性創傷へ移行するリスクがあります。
4. 成長因子とサイトカインの役割
増殖期では、多くの成長因子やサイトカインが活躍します。
- TGF-β(形質転換増殖因子β):線維芽細胞を活性化し、コラーゲン産生を促進
- VEGF(血管内皮増殖因子):血管新生を誘導
- FGF(線維芽細胞増殖因子):肉芽組織の維持と修復促進
これらの因子は、物理療法(電気刺激療法やレーザー治療など)の作用メカニズムと関連しており、リハビリテーションの研究対象にもなっています。
5. 増殖期におけるリハビリの視点
リハビリ現場で増殖期を理解することは、介入の適切なタイミングや方法を考えるうえで重要です。
- 運動療法:過度な負荷は肉芽形成を妨げる可能性がある一方、適度な活動は血流を改善し、修復を促進する。
- 物理療法:電気刺激や超音波、レーザーは成長因子の発現を高め、血流改善や組織再生をサポートする可能性が報告されている。
- 観察ポイント:肉芽の色や出血の有無、上皮化の進行状況を確認することで治癒の進行度を評価できる。
6. 増殖期がうまく進まない場合
増殖期に障害が生じると、創は慢性化しやすくなります。特に糖尿病や末梢循環障害のある患者では、血管新生や上皮化が遅れることがあります。
そのため、基礎疾患の管理と並行して、創傷環境を整えること(湿潤環境の維持、感染コントロール)が不可欠です。
まとめ
増殖期は、炎症反応を経て「組織が再生に向かうステップ」です。
- 肉芽組織形成 によって修復の土台が作られる
- 血管新生 により酸素と栄養が供給される
- 上皮化 によって創が閉鎖に向かう
- 成長因子やサイトカイン がこれらのプロセスを制御している
臨床家としては、この時期の患者の創部評価を的確に行い、運動・物理療法のバランスを取ることで、治癒を支援することが求められます。