物理療法

創傷治癒の最終段階「成熟期・リモデリング期」とは?コラーゲン再編と瘢痕形成のメカニズム

創傷治癒は「止血・炎症期」「増殖期」を経て、最終段階である 成熟期(リモデリング期) に入ります。この時期は創の見た目が大きく変化し、長期的な組織強度が決まる重要なステージです。

本記事では、成熟期の生理学的メカニズムと臨床的な意味を整理します。


1. 創収縮(wound contraction)の開始

成熟期では、初期に形成されたフィブリンクロットや肉芽組織が徐々に置き換えられていきます。この過程で 創収縮(wound contraction) が起こり、創の面積が縮小していきます。

この動きを担うのが 筋線維芽細胞(myofibroblast) です。筋線維芽細胞は収縮力を持ち、創の縁を引き寄せることで傷を閉じる働きをします。ただし、最終的にはアポトーシスによって役目を終え、消失していきます。


2. コラーゲンのリモデリング

成熟期の中心的なプロセスは コラーゲンの再編(リモデリング) です。

  • 初期に多く存在していた 未熟なタイプIIIコラーゲン は分解される
  • より強度の高い タイプIコラーゲン が優位となり、創の強度を高める

このリモデリングに関わるのが マトリックスメタロプロテアーゼ(MMPs)コラゲナーゼ で、マクロファージ・線維芽細胞・ケラチノサイトなどが分泌します。

結果として、創部は柔らかく安定した瘢痕へと変化していきます。


3. 期間と臨床的特徴

成熟期の期間は 約3週間〜6か月 とされます。創の大きさや患者背景(糖尿病、栄養状態、循環障害など)によってはさらに長期化することもあります。

臨床的には、この時期の創は赤みが次第に薄れ、白っぽい瘢痕へと変化します。また、瘢痕の強度は完全な健常皮膚には及ばないものの、最終的には70〜80%程度の強度を回復するとされています。


4. リハビリテーションでの視点

成熟期は外見的には「治った」ように見えるため、リハビリで軽視されがちですが、実際には重要な時期です。

  • 瘢痕の柔軟性維持:コラーゲン線維が過剰に沈着すると、瘢痕拘縮や可動域制限の原因となる。ストレッチやマッサージを適切に導入することが有効。
  • 物理療法の活用:瘢痕形成に対しては、シリコンジェルシートや圧迫療法が補助的に用いられる。
  • 機能回復との並行:組織強度は完全ではないため、過度な負荷は避けつつ、関節可動域や筋力の回復を計画的に進める必要がある。

5. 瘢痕形成とその管理

成熟期の最大の課題は「瘢痕管理」です。瘢痕は必要な修復の結果でもありますが、場合によっては肥厚性瘢痕やケロイドを形成し、機能障害や審美的問題につながります。

そのため、臨床家としては瘢痕の形状・柔軟性を観察し、必要に応じてリハビリ介入や皮膚科的治療の併用を検討することが求められます。


まとめ

創傷治癒の最終段階である成熟期は、見た目の改善だけでなく、組織強度と瘢痕の質を左右する重要なフェーズです。

  • 筋線維芽細胞の働きにより創収縮が進む
  • コラーゲンのリモデリングでタイプIIIからタイプIへ移行
  • MMPやコラゲナーゼによる組織再編が行われる
  • 臨床では瘢痕管理と機能回復の両立がポイント

このプロセスを理解し、リハビリに反映することで、患者の長期的な機能予後を改善することが可能です。

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taka
理学療法士TAKAが自分の臨床成果を少しでも高めるために、リハビリ・運動学・生理学・物理療法について学んだ内容を発信。合わせて趣味の読書や自己啓発等の内容の学びも自己満で発信するためのブログです。