物理療法

創傷治癒における物理療法の役割とは?フォトバイオモジュレーション・電気刺激・超音波などの基礎知識

創傷治癒(Wound Healing, WH)は自然に進む複雑なプロセスですが、糖尿病性潰瘍や褥瘡など慢性化した創では治癒が停滞しやすく、患者の生活の質に大きく影響します。

近年、従来のドレッシングやデブリードマンに加えて、物理療法(Physical Therapies, PT) が補助的治療として注目されています。物理療法は侵襲性が低く、副作用の少ない手段として期待されており、再生を促進し瘢痕を抑制する可能性があります。


1. 物理療法が作用するターゲット

創傷治癒は「止血・炎症期 → 増殖期 → 成熟期」という段階を経ます。物理療法はそれぞれの段階において以下のように作用すると考えられています。

  • 炎症期:炎症の過剰反応を抑え、血流を改善
  • 増殖期:線維芽細胞や血管新生を促進し、肉芽形成を支援
  • 成熟期:コラーゲンリモデリングを調整し、瘢痕肥厚を予防

つまり、物理療法は「自然治癒力を底上げするサポート」として機能します。


2. 主な物理療法の種類と作用機序

研究や臨床で注目されている物理療法には以下のものがあります。

  • PBM(Photobiomodulation, 光線療法)
    低出力レーザーやLED光を利用し、細胞代謝を促進。コラーゲン産生や血管新生を刺激。
  • LFU(Low-Frequency Ultrasound, 低周波超音波)
    微細な振動により血流改善や細胞膜透過性の亢進をもたらし、肉芽形成をサポート。
  • PDT(Photodynamic Therapy, 光線力学療法)
    光感受性物質と光照射を組み合わせ、感染コントロールや細胞再生に応用。
  • ES(Electrostimulation, 電気刺激療法)
    微弱電流を創部周囲に流すことで細胞遊走・増殖を促進し、感染防御や治癒をサポート。
  • VPL(Visible Pulsed Light, 可視光パルス療法)
    細胞代謝や炎症制御に作用。皮膚科領域で美容治療にも応用される。
  • PEMF(Pulsed Electromagnetic Field, パルス電磁場療法)
    細胞のカルシウムイオンチャネルを刺激し、組織修復を促進。骨癒合治療でも実績あり。
  • RF(Radiofrequency, 高周波療法)
    深部加温により血流を改善し、コラーゲン再構築を促進。
  • BT(Biophotonic Therapy, バイオフォトニック療法)
    光と光感受性ゲルを組み合わせた新しい治療。抗菌作用と創傷再生促進を両立。

3. 物理療法の導入方法 ― プロアクティブ vs リアクティブ

物理療法の使用タイミングは大きく2つに分けられます。

  • プロアクティブ(予防的介入)
    創傷の初期段階から導入し、再生を促し瘢痕形成を予防。
    例:術後創や外傷に早期からPBMを使用するケース。
  • リアクティブ(治療的介入)
    すでに慢性創傷(CW)、肥厚性瘢痕(HS)、ケロイドが生じた後に導入。
    例:治癒停滞した褥瘡や再発性ケロイドへの補助療法。

いずれの場合も、医師の判断と患者の協力 が必須です。患者教育やアドヒアランスの確保も治療成功の大きな要因となります。


4. 慢性創傷管理の基本と物理療法の位置づけ

物理療法は単独で完結する治療ではなく、基本的な創傷管理と併用することが前提です。

慢性創傷の管理の柱は:

  • 感染コントロール(バイオフィルム対策含む)
  • デブリードマン(壊死組織除去)
  • 適切なドレッシングによる湿潤環境維持
  • 圧迫療法(必要に応じて)
  • 栄養・基礎疾患管理

そのうえで、物理療法を組み合わせることで治癒スピードや瘢痕抑制が期待できます。


まとめ

物理療法は、創傷治癒のあらゆる段階に介入できるポテンシャルを持っています。

  • PBM・電気刺激・超音波・PEMF などが注目されている
  • プロアクティブ(予防的)・リアクティブ(治療的)の両面で活用可能
  • 従来の治療(ドレッシング・デブリードマン・感染管理)と併用することで効果が期待される
  • 患者教育とアドヒアランスが成功の鍵

臨床家にとって、物理療法は 「非侵襲的で安全性の高い補助的ツール」 として今後ますます重要性が高まっていくでしょう。

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taka
理学療法士TAKAが自分の臨床成果を少しでも高めるために、リハビリ・運動学・生理学・物理療法について学んだ内容を発信。合わせて趣味の読書や自己啓発等の内容の学びも自己満で発信するためのブログです。