創傷治癒の過程で生じる 肥厚性瘢痕(HS)やケロイド は、機能制限や美容的問題を引き起こすため、治療の重要な対象です。その中でも レーザー療法 は、現在もっとも広く臨床で用いられている第一選択肢の一つとされています。
本記事では、瘢痕治療におけるレーザー療法の種類と作用機序、臨床応用の最新知見を整理します。
1. レーザー療法のターゲットと柔軟性
瘢痕は「赤み」「肥厚」「色素沈着」など多様な症状を呈します。レーザーはこれらの症状に応じて異なる種類が用いられ、複数のレーザーを組み合わせて1回の治療で多角的にアプローチすることも可能です。
主なターゲット別のレーザーは以下の通りです。
- 赤み(血管新生・紅斑)
- パルスダイレーザー(PDL)
- IPL(インテンスパルスライト)
- Nd:YAGレーザー
- 皮膚肥厚・硬さ
- Er:YAGレーザー
- CO₂レーザー(アブレイティブ)
- 非アブレイティブフラクショナルレーザー
- 色素沈着(過剰メラニン)
- アレキサンドライトレーザー
- Qスイッチレーザー
- KTP 532nmレーザー
2. フラクショナルレーザー ― 金字塔的存在
フラクショナルレーザーには アブレイティブ(2790–10,600nm) と 非アブレイティブ(1320–1927nm) の2種類があります。
- アブレイティブレーザー(Er:YAG, CO₂など)
水をターゲットとし、皮膚に選択的な熱損傷を与える。深部まで作用しやすく、瘢痕治療の「ゴールドスタンダード」とされる。 - 非アブレイティブレーザー
表皮を温存しながら真皮に作用。ダウンタイムが短く、安全性が高い。
フラクショナル照射では皮膚に「ドット状のカラム」を作り、その間の健常皮膚から再生を促すため、治癒が早く瘢痕リモデリングが進みます。
臨床的には 真皮の厚さが減少し、柔軟性が向上 すると報告されています。
3. 血管レーザー(PDL)の役割
瘢痕の赤みや血管増生には パルスダイレーザー(PDL) がよく用いられます。
- 血管凝固により紅斑を改善
- ケロイドでは結合組織増殖因子(CTGF)の発現を抑制
- 線維芽細胞の増殖を抑える効果も報告
結果として、PDLは血管だけでなく瘢痕リモデリングにも寄与します。
4. 早期治療の可能性
レーザーは従来「瘢痕が成熟してから行う」治療とされてきましたが、術後早期から使用する試み も増えています。
- CO₂レーザーを手術直後に照射 → 一部研究では差が出なかったが、他の研究では美容的アウトカムの改善が報告
- PDL・非アブレイティブフラクショナルレーザー → 早期導入で瘢痕改善傾向あり(ただし統計的有意差は不十分)
文献レビューでは、治療開始は早いほど効果的 であり、5〜6週間ごとの継続セッションが推奨されています。
5. レーザー療法の課題と今後
レーザー療法はエビデンスが蓄積しつつありますが、課題も残されています。
- 研究によって結果が異なり、さらなる大規模臨床試験が必要
- 最適な波長・出力・照射間隔に関する標準プロトコルが未確立
- コストや専門機器の必要性から、導入は限られた施設にとどまる
それでも、専門家パネルではレーザー療法を瘢痕治療の第一選択肢として推奨 しており、臨床現場での役割は今後さらに拡大する見込みです。
まとめ
レーザー療法は瘢痕治療・予防における強力な選択肢です。
- アブレイティブ/非アブレイティブフラクショナルレーザー が瘢痕リモデリングのゴールドスタンダード
- PDL は赤み改善だけでなく線維芽細胞制御にも有効
- 色素沈着にはアレキサンドライトやQスイッチレーザー が適応
- 術後早期導入の可能性 があり、長期的な美容・機能改善が期待される
- 課題は標準化と長期エビデンスの不足
臨床家としては、瘢痕管理のオプションにレーザーをどう組み込むかを理解しておくことが重要です。