創傷治癒における 物理療法(Physical Therapies, PT) は、電気刺激(ES)、超音波(US)、低出力レーザー(LLLT)、光線力学療法(PDT)など多岐にわたります。これらは再生促進や瘢痕予防に有望とされますが、実際の臨床試験はまだ限られています。
本記事では、近年報告された臨床試験の知見を整理し、効果と課題を解説します。
1. 臨床試験の現状
PubMedで「Physical therapies skin wounds」をキーワードに、過去10年・臨床試験に絞ると 66件 の結果がありました。そのうち実際に皮膚創傷を対象としたのはわずか 8件、慢性創傷(CW)に特化したものは 6件 に過ぎません。
つまり、物理療法は研究段階にあり、まだ臨床ガイドラインには含まれていません。現時点では 補助療法(adjuvant therapy) として位置づけられています。
2. 電気刺激療法(ES)の臨床試験
最も多く検討されているのが 電気刺激療法(ES) です。
- Polakらの研究(褥瘡患者、神経障害あり)
43名を陽極群・陰極群・プラセボ群に分けて比較。
→ 治療群では 炎症性サイトカインが減少 し、局所炎症の改善と創縮小を認めた。 - 銀含有ドレッシングとの併用(10名)
一方の創にESを併用、他方をコントロールとした試験。
→ 有意に治癒が促進。 - 糖尿病性潰瘍(DU)の試験(10名 vs 10名プラセボ)
ES群で VEGFとNOの血中濃度が上昇。治癒促進だけでなく、疼痛軽減効果も報告。
3. 超音波療法(US)とESの比較試験
超音波療法も慢性創傷で研究されています。
- PU(褥瘡)患者27名での比較試験
ESとUSを比較。両群とも治癒促進効果あり、両者に有意差はなし。 - PU患者77名での多群比較(標準ケア vs US vs ES)
PT群(US・ES)はプラセボよりも有意に潰瘍面積が縮小。
→ ただしUSとESの間に明確な差は見られず。
4. 課題と限界
これらの臨床試験には共通の課題があります。
- 症例数が少ない:多くは数十名規模
- 研究デザインの違い:電流の種類、出力、頻度が統一されていない
- 交絡因子の影響:基礎疾患(糖尿病・循環障害)、栄養、感染コントロールなどが治癒に影響
- 長期的な効果の検証不足
そのため、現在のエビデンスは「有望だが限定的」と言えます。
5. 臨床的な意味
物理療法はガイドラインに含まれていないものの、以下の点で補助療法として期待されます。
- ES:炎症抑制、VEGF産生促進、疼痛軽減
- US:血流改善、組織修復サポート
- 組み合わせ治療:標準的創傷管理(デブリードマン・ドレッシング・感染対策)との併用が前提
臨床現場では「治癒が停滞している慢性創傷」におけるオプションの一つとして検討する価値があります。
まとめ
- 過去10年で創傷治癒に関する物理療法の臨床試験は少数(8件)、慢性創傷では6件のみ
- 電気刺激(ES) は炎症抑制・成長因子促進・疼痛軽減に効果あり
- 超音波(US) はESと同程度の効果があり、補助療法として期待される
- ただし標準化・大規模研究が不足しており、ガイドラインには未収載
物理療法はまだ「発展途上の補助療法」ですが、将来的には慢性創傷治療の選択肢として確立される可能性があります。