崩れ去る平和の前提。物価高騰と自給力の行方
平和という前提の崩壊
先日まで、日本の物価上昇率は抑制され、インフレ目標の指標である2%を切ると予想されていた。しかし、それは中東での紛争が激化する前の話である。 ホルムズ海峡が実質的に封鎖されたことで、エネルギー価格や輸入物価には猛烈な上昇圧力が加わっている。誰も予想できなかった事態により、これまでの経済の見通しは完全に覆されてしまったといえる。
露呈したエネルギー供給の脆弱性
その象徴ともいえるのが、カタールの国営エネルギー企業による液化天然ガス、いわゆるLNGプラントの生産停止と「不可抗力宣言」である。 通常、LNGの売買は「20年間一定価格で供給する」といった超長期契約が結ばれる。しかし、施設が攻撃を受けたことで契約を履行できなくなり、不可抗力宣言を出さざるを得なくなったのだ。 安定した供給は、あくまで「平和」が前提だったということである。日本が他国からLNGを緊急調達しようとしても、市場価格はすでに高騰しており、厳しい状況に立たされている。
食卓を直撃する見えない連鎖
この影響は、電気代やガス代の値上がりだけでは済まない。 私たちの食卓を支える農業も、化石燃料に深く依存している。トラクターなどの農業機械を動かす燃料はもちろんのこと、化学肥料を生産するためにも大量の化石燃料が不可欠なのだ。 「化学肥料が使えないなら有機農業にすればいい」と考えるかもしれないが、日本の農業の99%は化学肥料に頼る慣行農業である。エネルギーの輸入減は、そのまま農産物の価格高騰に直結する恐ろしい連鎖を生み出している。
モノが輸入できない時代の処方箋
エネルギーや食料の価格が再び上昇に転じる中、「日銀は利上げすべきだ」という声が上がるかもしれない。しかし、それは本質から目を背けた議論といえるだろう。 真の問題は、特定の資源を特定の国に過度に依存してきた体制そのものにある。外国から当たり前のようにモノが輸入される時代は、すでに終わりを告げているのだ。 今求められているのは、輸入元の多様化を図り、国家としての自給力を根本から強化していくことである。私たちは、この冷酷な現実を直視しなければならない。
