中国発スタグフレーションの足音
物価高イコール脱デフレという誤解
現在の世界は、総需要の不足によるデフレと、輸入コスト高騰による物価上昇という二つの脅威に直面している。一時期、日本でも物価が上がっただけで「デフレから脱却した」と喜ぶ声があった。しかし、それは大きな誤解である。インフレとは需要が供給を上回り経済が膨らむこと、デフレとは需要が不足し経済が縮むことを指す。物価の上下は、あくまでその結果や外部要因にすぎない。つまり、国内の需要が冷え込んだデフレ状態であっても、海外からの輸入価格が高騰すれば、物価だけが容赦なく上昇することはあり得るのである。
中国不動産バブルの静かなる崩壊
その象徴ともいえる事態が、現在の中国で進行している。かつて地方政府は、新築マンションの大幅な値下げを禁止し、バブル崩壊の表面化を強引に先送りしてきた。しかし今、ついに「値下げというパンドラの箱」が開かれ、一部の物件には徹夜の行列ができるようになった。だが、これは決して経済の回復を意味しない。すでに高値で不動産を買ってしまった人々は、資産価値が目減りし、多額の負債だけが残る「潜在的な債務超過」に陥っている。一度下落が始まれば「さらに下がるかもしれない」という心理が働き、不動産価格は底なし沼へと沈んでいくのである。
日中におけるバブル崩壊の決定的な違い
住宅ローンの重圧に耐えかねて投げ売りが始まれば、別の誰かの資産価値まで連鎖的に下落していく。このプロセス自体は、かつて日本が経験したバブル崩壊とよく似ている。だが、決定的に異なる点がある。日本のバブル崩壊時は、世界情勢が安定しており、輸入物価も落ち着いていた。しかし今の中国は違う。国内経済が縮小し、過当競争によって労働者の賃金が買い叩かれ、失業率が上昇する一方で、輸入コストの高騰による物価上昇が同時に押し寄せているのである。
迫り来るスタグフレーションの波紋
需要不足によるデフレと、輸入に起因する物価上昇。この二つは、最悪の形で共存し得る。我々はこれから、中国で起きる「二十一世紀初の本格的なスタグフレーション」を目の当たりにすることになるだろう。不況下での物価高という過酷な現実から逃れるため、多くの人々が国外へと向かう可能性は極めて高い。その波紋は、当然ながら隣国である日本にも及ぶ。私たちの社会と経済を守るために、いかなる防波堤を築くべきか。今まさに、その備えが問われているのである。
