「それはダメだ」「やめなさい」――こう言われて素直に従いたくなる人は少ないでしょう。むしろ反発してしまうのが人間です。古代ローマの哲学者セネカは『倫理書簡集』で、賢者はこう振る舞うと説きました。
「賢者が酔っ払わないのは、酔うのが醜く汚らわしいという事実によって示される」
つまり「悪いからやめろ」ではなく、「それをすると惨めになるからやめろ」と伝えるのです。
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ストア派の説得術
ストア派は快楽を全否定するのではなく、「度を過ぎれば苦痛になる」と説明しました。道徳的なお説教ではなく、相手にとって合理的な理由を提示するのです。
現代でも同じことが言えます。例えば――
- 「夜更かしはよくない」ではなく → 「早く寝た方が翌日ラクだよ」
- 「タバコは体に悪い」ではなく → 「禁煙した方がお金も健康も得する」
- 「勉強しなさい」ではなく → 「勉強すると自分の選択肢が広がる」
人を動かすのは「善悪」よりも「利益」。これをロバート・グリーンも『権力に翻弄されないための48の法則』で「他人に助力を求めるときは相手の利益に訴えよ」と表現しています。
自分を説得するときにも使える
この知恵は他人を動かすだけでなく、自分を律するときにも使えます。
- 「運動しないとダメだ」ではなく → 「運動すると気分がスッキリして集中力が上がる」
- 「無駄遣いはやめなきゃ」ではなく → 「節約すれば旅行や欲しいものに回せる」
「やらねばならない」ではなく「自分のためになる」と考えれば、意志の力に頼らずに行動しやすくなるのです。
まとめ
セネカが教えるのは、「説得は相手の利益に訴えよ」という実践的な知恵です。他人に行動を促すときも、自分を変えたいときも、道徳ではなく「その方が得だから」という視点を持ちましょう。それだけで、人はずっと動きやすくなるのです。