肩関節の評価において、前方からの触診と圧痛の確認は非常に重要です。大結節や小結節、結節間溝、烏口突起、腱板疎部、斜角筋三角部には多くの軟部組織が付着・走行しており、それぞれが圧痛の好発部位となります。本記事では、それぞれの部位の圧痛が示す臨床的意義と、関連する徒手検査について整理します。
大結節の圧痛
大結節は腱板の付着部が集中する領域であり、以下が疑われます。
- 肩峰下滑液包炎
- 棘上筋腱・棘下筋腱の炎症
- 腱板損傷
臨床では、肩関節を伸展・内転位に誘導し、烏口肩峰アーチから大結節を引き出して触診すると圧痛が明確になります。また、腱板断裂部の「delle」でも圧痛を認めることが多いです。
関連する徒手検査:
- painful arc sign
- drop arm sign
これらで腱板機能やインピンジメントの有無を確認します。
小結節の圧痛
小結節は肩甲下筋腱の付着部であり、圧痛は以下を示唆します。
- 肩甲下筋腱の炎症
- 腱板損傷
関連する徒手検査:
- lift-offテスト
- belly pressテスト
これらにより肩甲下筋の機能を評価します。
結節間溝の圧痛
結節間溝は上腕二頭筋長頭腱が走行する部位で、圧痛は以下を疑います。
- 上腕二頭筋長頭腱腱鞘炎
- 上腕二頭筋長頭腱脱臼
関連する徒手検査:
- Yergasonテスト
- Speedテスト
腱脱臼の際には、小結節を乗り越える現象を触診で確認することも重要です。
烏口突起の圧痛
烏口突起には、以下の筋が付着します。
- 上腕二頭筋短頭
- 烏口腕筋
- 小胸筋
それぞれの付着部位は異なるため、付着点を明確に圧迫して鑑別することが大切です。炎症や過緊張により圧痛を示すことがあります。
腱板疎部の圧痛
腱板疎部は、腱板損傷や上腕二頭筋長頭腱炎が関与する部位です。損傷・癒着・瘢痕化があると:
- 烏口上腕靭帯、上関節上腕靭帯の伸長刺激で疼痛
- 棘上筋・肩甲下筋の伸張や収縮で疼痛
といった臨床症状が誘発されます。
斜角筋三角部の圧痛
斜角筋三角部(前斜角筋・中斜角筋・第一肋骨で囲まれる領域)は、**胸郭出口症候群(TOS)**の圧痛点として重要です。Morleyテストで確認され、強い場合には上肢帯から指先へ放散痛を伴うこともあります。
まとめ
肩関節前方の触診は、腱板損傷・二頭筋腱炎・TOSといった多様な病態の鑑別に直結します。圧痛部位を正確に捉えた上で、適切な徒手検査(drop arm sign、lift-off、Yergasonなど)を組み合わせることで、臨床的な判断の精度を高めることが可能です。
理学療法士としては、疼痛評価を基盤に機能障害を的確に把握し、治療方針の立案につなげていくことが求められます。