臨床現場で「筋が硬い」と表現される状態には、筋攣縮(spasm)と筋短縮の2つがあります。両者は似ているようで異なる病態を示し、治療方針を立てる上で明確に区別する必要があります。本記事では、それぞれの生理学的背景と臨床的な評価方法を整理します。
筋攣縮(spasm)とは
筋攣縮とは、筋が痙攣した状態を指し、しばしば血管のスパズムも伴います。
生理学的機序
- 関節周囲組織に物理的・化学的刺激が加わる
- 侵害受容器が反応し、脊髄へ信号が入力
- 信号は「脳へ伝達される経路」と「脊髄反射を介して末梢へ伝達される経路」に分かれる
- 脊髄反射により筋や血管が攣縮
このように筋攣縮には脊髄反射が強く関与しています。
臨床的影響
- 攣縮の持続 → 局所循環不全
- 筋細胞の虚血 → 組織変性 → 発痛物質の生成
- 疼痛と運動制限が出現
- 反復する反射 → 負のスパイラルとなり関節拘縮を助長
つまり、筋攣縮は疼痛と循環不全を背景に持つ一時的な異常収縮といえます。
筋短縮とは
筋短縮とは、筋の伸張性が低下した状態です。攣縮とは異なり、持続的な筋緊張や虚血による疼痛を伴わないことが特徴です。
生理学的機序
- 筋実質部の変化
- 筋節数が減少すると伸張性が低下
- 筋節が少ないと伸ばした際に抵抗が増す
- 結果として「筋が伸びにくい」状態になる
- 筋膜の線維化
- 不動や運動不足による筋膜のコラーゲン増加
- コラーゲン分子間に架橋結合が形成され、硬度上昇
- これが「伸展抵抗の増大」として臨床で捉えられる
筋攣縮と筋短縮の鑑別評価
圧痛の有無
- 筋攣縮:短縮位でも循環不全により過敏 → 圧痛あり
- 筋短縮:筋節数の減少による構造的変化 → 圧痛なし
触診での緊張
- 筋攣縮:伸張位・短縮位ともに緊張が高い
- 筋短縮:伸張位では緊張高いが、短縮位では緊張が低下
等尺性収縮での反応
- 筋攣縮:循環不全に伴う筋力低下あり。強い等尺性収縮を課すと疼痛が誘発される
- 筋短縮:著明な筋力低下なし。強い等尺性収縮でも疼痛は出現しない
まとめ
- 筋攣縮は脊髄反射を介した一時的な異常収縮であり、疼痛と循環不全を伴いやすい
- 筋短縮は筋節数の減少や筋膜線維化による構造的変化であり、疼痛は少ない
- 臨床では「圧痛」「触診での緊張の違い」「等尺性収縮での反応」に注目すると鑑別しやすい
このように両者を見分けることは、徒手療法・運動療法のアプローチ選択に直結します。疼痛緩和が必要なのか、ストレッチで伸張性改善を狙うのかを判断するために、評価の積み重ねが重要です。