恐怖に支配されるとき、何が起きているのか
ストア派の哲学者エピクテトスはこう述べました。
「人が人に対して恐怖を抱くとき、その原因は事物にある。事物を与えるも奪うも相手の自由となったとき、恐怖は生まれる」
たとえば、上司の機嫌次第で評価が変わる職場。経済状況や景気に大きく依存する生活。こうした状況では、私たちは容易に「相手の力」に怯えてしまいます。
しかしエピクテトスは、恐怖の原因は外にあるのではなく、自分の心の中にあると言います。
心の砦がしっかりしていれば、どんなに外部が揺さぶっても崩れることはありません。
「内なる砦」とは何か
ストア派の考え方で重要なのが「内なる砦」という概念です。これは、外部から侵されることのない心の領域のことを指します。
マルクス・アウレリウスも『自省録』でこう書いています。
「モノが魂に触れることはできない」
つまり、出来事そのものが私たちを傷つけるのではなく、それをどう受け止めるかによって心の平穏が決まるというのです。
しかし歴史が示すように、この砦も「内側からの裏切り」によって崩れます。恐怖、欲望、強欲といった感情に門を開いてしまえば、いとも簡単に心は支配されてしまうのです。
恐怖に屈しないための3つの実践
では、私たちはどうすれば「内なる砦」を守れるのでしょうか。
1. コントロールできるものとできないものを分ける
ストア派哲学の基本は「自分がコントロールできるもの」と「できないもの」を明確に区別することです。天気、他人の評価、社会の変化はコントロールできません。しかし、自分の行動や判断は常に自分の手にあります。
恐怖の多くは「自分では変えられないこと」にしがみつくことで生まれます。それを手放すだけで、心は軽くなります。
2. 恐怖を言葉にして眺める
漠然とした不安は、正体が見えないからこそ大きく膨らみます。紙に「自分が恐れていること」を書き出してみましょう。「失敗するかもしれない」「人に嫌われるかもしれない」――こうして言葉にすれば、その多くが実際には大した問題ではないことに気づけます。
3. 小さな「不自由」をあえて経験する
エピクテトスは、少ないもので暮らす訓練を勧めています。これは「失っても大丈夫」という感覚を育てるためです。スマホを持たずに散歩してみる、財布の中身を必要最低限にしてみるなど、小さな不自由を体験することで、恐怖に強い心を鍛えられます。
自分を裏切らないこと
エピクテトスは最後にこう語ります。
「君には強固な砦が備わっている。それを裏切ってはならない」
外部の出来事が心を揺さぶるのではなく、心が恐怖や欲望に門を開いたときにこそ砦は崩れます。つまり、本当の敵は外にではなく、自分の内にいるのです。
だからこそ、「自分を裏切らない」という姿勢が大切です。自分の価値観に忠実であること、他人の思惑に振り回されないこと。それが、どんな状況でも心を守る唯一の方法です。
まとめ:内なる砦を日常で守る
恐怖や不安は、現代社会でも避けることはできません。しかし、心の中に強固な砦を築いておけば、それらに支配されることはありません。
- コントロールできるものに集中する
- 恐怖を言葉にして客観視する
- あえて小さな不自由を経験する
これらを習慣にすることで、あなたの内なる砦は強固になります。
「モノが魂に触れることはできない」――マルクス・アウレリウスの言葉を胸に、今日から自分の心を守る訓練を始めてみませんか。