「神々がわれわれに与えたのは、外の世界の出来事を正しく用いる力であり、それこそが最も強力な力だ」――これはストア派哲学者エピクテトスが『語録』の中で述べた言葉です。
彼は、神々が人間に「天候や他人や運命をコントロールする力」を与えなかったのは不公平ではない、と説きます。なぜなら、人間に与えられた「切り札」、すなわち「物事にどんな意味を与えるかを決める力」があまりにも強力だからです。
コントロールできないものを嘆くか、できるものに集中するか
人生では、私たちの手の届かないものが多すぎます。
- 明日の天気
- 他人の言動や判断
- 健康や寿命
- 経済や社会の動向
こうしたものを完全にコントロールすることはできません。だからこそ、多くの人は未来を悲観し、不安に押しつぶされそうになります。
しかし、同じ未来を「意味づけの力」で違うものに変えることもできます。悲観する代わりに「何が起きても私はそれに対処できる」と考える。自分で意味を選び取れば、状況に左右されない心の自由を保つことができます。
最強の切り札=「意味を決める力」
エピクテトスが強調するのは、外の出来事そのものではなく、「その出来事をどう解釈し、どう受け止めるか」を選べることです。
- 雨の日を「嫌な天気」と思うか、「落ち着いて読書できる機会」と思うか
- 失敗を「終わり」と考えるか、「学びの種」と捉えるか
- 病気を「不幸」と思うか、「自分の生き方を見直す契機」と考えるか
外界を完全に支配することは不可能ですが、「自分の態度」だけは常に自分のコントロール下にあります。
なぜこの力は公平なのか?
もし私たちが他人を自由にコントロールできるなら、他人も同じように私たちを操れることになります。それは決して公平ではありません。
しかし「意味を決める力」は、誰にでも等しく与えられています。社会的地位や財産に関係なく、誰でも自分の態度を選ぶことはできる。この普遍性こそが「最強の切り札」と呼ばれる理由です。
今直面している問題にも使える
この切り札のすごさは、まさに「今の困難」にも適用できる点にあります。
- 職場のトラブルを「理不尽」と嘆くのではなく、「忍耐や交渉力を鍛える訓練」と捉える
- 人間関係の摩擦を「ストレス」と考える代わりに、「理解や共感を学ぶ機会」と見る
- 健康上の制約を「不幸」と切り捨てず、「生活習慣を見直すきっかけ」とする
意味づけを変えるだけで、同じ出来事がまったく違う価値を持ち始めます。
実践のステップ
- 「これは自分で変えられるか?」と自問する
外の出来事を変えられないと分かったら、心の反応に焦点を切り替える。 - 出来事に意味を与える言葉を選ぶ
「試練」「学び」「チャンス」など、前向きな言葉で出来事を再定義する。 - 小さな場面から習慣化する
交通渋滞、予定変更、ちょっとした失敗。日常の小さなことから練習してみる。
まとめ
- 外界を完全にコントロールすることはできない
- しかし「出来事にどう意味を与えるか」という切り札は誰にでも与えられている
- この切り札を使うことで、困難を学びや成長に変えることができる
エピクテトスが説いた「最強の力」とは、環境に支配されずに「自分の態度を選べる自由」でした。
次に何か問題に直面したら思い出してください。
「これは私にとって何を意味するのか? その意味を決めるのは、私自身だ」ということを。