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足関節の役割と構造
足関節は下腿と足部の間に位置し、歩行や立位動作における「継手」としての役割を果たします。本記事でいう足関節は、距腿関節(脛骨・腓骨・距骨によって構成される関節)を指し、主に背屈と底屈運動を担います。
距腿関節は狭い関節面で荷重を支えているため、解剖学的に安定性と可動性の両立が求められます。背屈可動域は底屈可動域より小さく、足部の複数の関節と連動することで、より複雑な動作を可能にしています。
足関節運動の基本用語
日本足の外科学会の定義に基づき、足関節・足部の運動は以下のように分類されます。
- 矢状面:背屈・底屈
- 前額面:外がえし・内がえし
- 横断面:外転・内転
さらに、
- 回内:背屈+外転+外がえし
- 回外:底屈+内転+内がえし
「外反」「内反」という用語は変形に対して用いられるため、運動の表現としては使われません。臨床ではこの区別を明確にしておくことが重要です。
足関節の可動域
1. 背屈可動域
- 正常範囲:約20〜30°
- 荷重位や他動運動の方が大きい可動域を示す
- 膝伸展位では腓腹筋の緊張により減少
- 足趾伸展位では長母趾屈筋・長趾屈筋の緊張により減少
- 制限があると:しゃがみ込み、階段降段、歩行時のつまずきリスクに直結
2. 底屈可動域
- 正常範囲:約40〜50°
- 荷重や正座姿勢でさらに拡大
- 足趾伸展位では長母趾伸筋・長趾伸筋の緊張で減少
- 制限があると:歩行・走行の蹴り出し、正座や横座りに支障
3. 回外可動域
- 正常範囲:約60°(距骨下関節:約20°+中足部:約40°)
- 制限があると:不整地歩行や胡坐姿勢で困難
4. 回内可動域
- 正常範囲:約30°(距骨下関節:約10°+中足部:約20°)
- 制限があると:坂道・砂利道でのバランス保持に支障
下腿と足部の連動関係
足関節は単関節運動にとどまらず、下腿の回旋運動と足部の回内・回外が連動する複合運動を形成します。
- 下腿外旋 → 後足部は回外、中・前足部は回内
- 下腿内旋 → 後足部は回内、中・前足部は回外
この複雑な運動により、足底接地を維持しつつ動作に適応しています。逆に言えば、足部の一関節に障害があれば、その影響は上位関節にまで波及することになります。
ADLと足関節可動域
1. 立位
- 足関節は約10°背屈位が必要
- 背屈制限があると前後・側方バランスを崩しやすい
2. 立ち上がり
- 座面が低いほど背屈可動域が必要
- 35cm台:軽度の背屈で可能
- 15cm台:大きな背屈が求められる
3. 歩行
- 1歩行周期で「2回の背屈」と「1回の底屈」が発生
- 背屈:約15°、底屈:約20°
- 内転:約2°、外転:約8°、外がえし:約3°、内がえし:約12°
- 加齢に伴い可動域は徐々に減少
4. 階段昇降
- 昇段:支持脚は底屈、踏み出し脚は背屈
- 降段:支持脚は背屈、踏み出し脚は底屈から背屈への切り替え
- 段差が高いほど、背屈・底屈ともに大きな可動域が必要
5. 床での生活動作
- 正座、胡坐、横座り、割座などでは複合可動域が必要
- 特に日本人の生活習慣では足関節の柔軟性が重要
まとめ
足関節は単純な背屈・底屈だけでなく、回内・回外や下腿との複合運動を通じて全身の動作を支えています。
- 背屈制限 → 立位・しゃがみ込み・階段降段に影響
- 底屈制限 → 蹴り出し・正座・特殊動作に影響
- 回内・回外制限 → 不整地歩行やバランス保持に影響
臨床では、ADLに必要な可動域を意識し、患者ごとの生活背景に応じた評価と運動療法を行うことが大切です。