疼痛の要因を理解する:運動器セラピストが注目すべき疼痛のメカニズムと対応
はじめに
臨床現場において「疼痛」を訴える患者は少なくありません。特に運動器を扱うセラピストにとって、痛みの理解は治療方針を決定する上で欠かせない要素です。疼痛は単なる主観的な不快感ではなく、身体内部で生じるさまざまな現象の結果として現れます。そのため「疼痛の解釈=治療法の決定」と言っても過言ではありません。
本記事では、疼痛を大きく二つの要因に分け、臨床でどのように考え、どのように治療へつなげるかを整理します。
疼痛の分類:二つの主要な要因
1. 科学的要因による疼痛
科学的要因とは、外傷や手術侵襲などで生体組織が損傷を受けた結果として生じる疼痛です。この場合、起炎物質が放出され、局所に炎症反応が起こります。炎症の5徴候として知られるのは以下の通りです。
- 疼痛
- 腫脹
- 発熱
- 発赤
- 機能障害
炎症が生じると、ポリモーダル受容器が刺激され、痛みに対する閾値が低下します。その結果、痛覚過敏となり、患者はわずかな刺激でも強い痛みを感じるようになります。
臨床で重要なのは、この段階でセラピストによる直接的な治療手段が限られている点です。基本的には以下のような対応が適切とされます。
- 消炎鎮痛剤の投与
- 神経ブロック注射
- 局所の安静
したがって、炎症期における運動療法の実施には注意が必要です。組織がまだ回復していない状態で過度な負荷を与えると、炎症を助長し、かえって症状を悪化させる可能性があります。急性期からの介入を行う際には「刺激を最小限に抑える」ことが大前提となります。
2. 物理的要因による疼痛
もう一つの大きな要因は「物理的要因」です。圧縮、摩擦、牽引、捻転といった物理的なストレスによって疼痛が発生します。その多くは「硬縮」を基盤として生じることが特徴です。
関節や筋の可動域制限、軟部組織の柔軟性低下が背景にある場合、物理的ストレスが蓄積され、疼痛が慢性化するリスクがあります。このタイプの疼痛は、炎症性疼痛とは異なり、運動療法によって改善が期待できる領域です。
具体的なアプローチとしては、
- 関節可動域訓練
- 筋伸張運動
- 姿勢や動作の再教育
などが有効とされます。
疼痛の発生源が「硬縮」にある場合、段階的かつ計画的に運動療法を導入することで、症状の軽減につながることが多いです。
臨床における疼痛解釈の重要性
セラピストにとって重要なのは、「疼痛の背景にどのようなメカニズムがあるのか」を見極めることです。
- 炎症性疼痛なのか
- 物理的要因による疼痛なのか
この区別が不明確なまま治療を進めると、適切なアプローチを見失い、患者の症状を長期化させる可能性があります。特に頭痛のように多因子性の疼痛では、病歴や症状の詳細な聴取、身体所見の評価が不可欠です。
まとめ
疼痛は単なる「痛み」ではなく、その背後に複雑な生理学的・力学的な要因が隠れています。
- 炎症に基づく疼痛 → 消炎・安静が優先
- 物理的要因による疼痛 → 運動療法が有効
このように疼痛の原因を解釈することが、治療法の選択に直結します。運動器を扱うセラピストにとって、疼痛の分類と適切なアプローチの理解は臨床スキルの基盤となります。
疼痛への対応を考える際には、「原因を見極めることが治療の第一歩」であることを常に念頭に置きたいものです。
