はじめに
膝関節痛は、変形性膝関節症(膝OA)やスポーツ外傷、術後合併症など、多様な要因によって引き起こされます。しかし、膝関節内のどの組織が「痛みを感知できるのか」を理解していなければ、疼痛の発生源を正確に鑑別することはできません。
本記事では、膝関節内に分布する痛覚神経の存在部位と、それに基づく疼痛の特徴について整理します。
膝関節内で痛覚神経が多い部位
膝関節内において、特に痛覚神経が多数分布しているのは以下の部位です。
- 滑膜組織(synovial tissue)
- 膝蓋下脂肪体(Infra Patella Fat pad;IPF)
これらの組織は侵害刺激に対して感受性が非常に高く、膝関節痛の主要な発生源となります。
IPF(膝蓋下脂肪体)と疼痛の関係
膝蓋下脂肪体(IPF)は、膝蓋腱の直下に存在する柔軟な脂肪組織であり、膝の衝撃吸収や滑走運動の円滑化に関与しています。
- 膝OAにおけるIPFの変性
膝OAではIPFが変性しやすく、IPF性疼痛を合併する例が多く報告されています。膝前面の痛みを訴える患者では、IPFの変性が関与している可能性が高いといえます。
- 関節鏡手術後の癒着・瘢痕化
関節鏡下手術では、器具がIPFを貫通して進入するため、術後にIPF周囲で癒着や瘢痕化が生じやすくなります。これも慢性疼痛の一因となります。
- 膝蓋骨不安定症との関連
IPFが感受性の高い状態で膝蓋骨の不安定性が存在すると、IPFに過剰なストレスが加わり、疼痛発症の引き金となります。
痛覚神経が存在しない部位
一方で、膝関節内のすべての組織が痛覚を感知できるわけではありません。
- 関節軟骨
- 半月板内縁部
- 前十字靱帯(ACL)中央部
- 後十字靱帯(PCL)中央部
これらの部位には痛覚神経が存在しないため、組織損傷があっても直接的に疼痛を感じることはありません。
半月板損傷と疼痛の発生源
半月板はその外周部に痛覚神経が分布しているため、外周部の損傷は疼痛を伴いやすくなります。
- 外周部損傷 → 痛覚神経による疼痛
- 内縁部損傷 → 基本的には無痛だが、機械的ロッキングや可動域制限が症状となる
さらに、半月板損傷部では血管新生が生じることがあり、このとき新生血管とともに神経枝が侵入することで疼痛が増幅されます。
臨床での疼痛解釈のポイント
膝関節痛を評価する際、以下の視点を持つと疼痛源を特定しやすくなります。
- 膝前面の疼痛 → IPF性疼痛や膝蓋大腿関節の不安定性を疑う
- 膝内側の疼痛 → 半月板外周部や内側側副靱帯の関与を考慮
- 術後の慢性疼痛 → IPFの癒着・瘢痕化をチェック
- 膝OAでの疼痛 → 滑膜性炎症+IPF変性の合併を念頭に置く
疼痛の発生源を構造的に理解することで、より適切な治療戦略を立てることが可能になります。
まとめ
膝関節内の痛覚神経分布を整理すると以下のようになります。
- 痛覚神経が多い部位:滑膜組織、膝蓋下脂肪体(IPF)
- 痛覚神経が存在しない部位:関節軟骨、半月板内縁、ACL・PCL中央部
- 半月板損傷の疼痛源:外周部の痛覚神経、新生血管に伴う神経侵入
- IPFの臨床的特徴:OA変性、術後癒着、膝蓋骨不安定症との関連
セラピストは「どの組織が痛みを感知できるのか」という基礎知識を持ち、疼痛評価に応用することが求められます。
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理学療法士として臨床に携わりながら、リハビリ・運動学・生理学を中心に学びを整理し発信しています。心理学や自己啓発、読書からの気づきも取り入れ、専門職だけでなく一般の方にも役立つ知識を届けることを目指しています。