はじめに
膝関節伸展機構を構成する大腿四頭筋の広筋群(内側広筋・外側広筋・中間広筋)は、柔軟性や滑走性が低下すると膝関節の拘縮や疼痛を引き起こす要因となります。
そこで臨床では、伸張性の評価と同時に滑走性改善を目的としたダイレクトストレッチングを行うことが有効です。本記事では、その具体的な方法と臨床応用を解説します。
広筋群の伸張評価とダイレクトストレッチング
内側広筋へのアプローチ
- 把持方法:内側広筋を直接把持
- 操作方向:後内側方向へグライディング
- 目的:筋の短縮や滑走障害を解消し、内側安定性を回復
外側広筋・中間広筋へのアプローチ
- 把持方法:外側広筋と中間広筋を個別に把持
- 操作方向:後外側方向へグライディング
- 注意点:直位から遠位にかけて順に操作することで、全体的な滑走性を高める
IPFと外側支帯へのアプローチ
- 把持部位:IPF外側や外側支帯全体
- 操作方向:関節包および外側靭帯に対するグライディング
- 目的:膝蓋下脂肪体(IPF)の滑走性を確保し、膝前部痛を軽減
膝蓋骨の操作と脂肪体の滑走性改善
膝蓋骨周囲はSFP(膝蓋上脂肪体)、PFP(前大腿脂肪体)、IPFが存在し、膝運動に伴う摩擦や滑走を調整しています。
- 膝蓋骨操作:
- 滑動性改善の工夫:
- 膝蓋骨の近位滑動は上方へ
- 膝蓋骨の遠位滑動は内方方向へ引き下げる
この操作により、SFP・PFP・IPFの滑走性が改善され、膝伸展機構全体の動きが円滑になります。
ダイレクトストレッチングの臨床的意義
ダイレクトストレッチングは「評価と治療を同時に行える」点が最大の特徴です。
- 評価面:組織硬度や柔軟性の変化をリアルタイムに確認できる
- 治療面:滑走性改善によって拘縮や疼痛を軽減
また、この操作は隣接組織の柔軟性変化を捉えやすく、関節全体の動態を把握しながら施術を進められる利点があります。
実施時のポイントと手順
- 開始肢位:膝関節伸展位から開始
- 圧刺激:組織硬度を確認しながら適切な圧を加える
- 角度調整:徐々に膝屈曲角度を増やしながら伸張性を評価・改善
- 滑走性確認:膝蓋骨モビライゼーションを組み合わせ、脂肪体の自由度を高める
これらを繰り返すことで、膝関節伸展可動域や機能回復につながります。
まとめ
- 広筋群(内側広筋・外側広筋・中間広筋)の柔軟性低下は、膝関節拘縮や疼痛の原因となる
- ダイレクトストレッチングは評価と治療を兼ね備えた有用な手技
- IPFや外側支帯へのアプローチ、膝蓋骨モビライゼーションと併用することで滑走性が改善
- 実施時は伸展位から開始し、屈曲角度を徐々に増加させるのが効果的
広筋群の伸張評価とダイレクトストレッチングを適切に組み合わせることで、膝関節機能を効率的に改善し、臨床効果を高めることができます。
ABOUT ME

理学療法士として臨床に携わりながら、リハビリ・運動学・生理学を中心に学びを整理し発信しています。心理学や自己啓発、読書からの気づきも取り入れ、専門職だけでなく一般の方にも役立つ知識を届けることを目指しています。