はじめに
膝関節屈曲可動域の制限は、膝OAや膝蓋大腿関節障害などで頻繁に見られる症状です。その背景には、伸展機構を構成する大腿四頭筋や膝蓋周囲組織の伸張性・滑走性障害が存在します。
臨床家にとって重要なのは、膝屈曲可動域の制限を「単なる関節拘縮」と捉えるのではなく、筋群や軟部組織の滑走性障害が及ぼす影響として理解することです。
伸展機構と屈曲運動の関係
大腿四頭筋の広筋群は、膝関節伸展だけでなく屈曲時にも重要な役割を担います。
- 内側広筋(medialis):深屈曲位では膝蓋骨内側を後方へ滑走させる
- 外側広筋・中間広筋(lateralis・intermedius):膝蓋骨を後外側方へ包み込むように滑走させる
この協調した滑走運動によって、膝蓋骨は安定した軌道を保ち、円滑な屈曲が可能になります。
滑走障害と膝OA・PF関節障害
膝OAや膝蓋大腿関節障害では、特に内側広筋を中心に組織弾性が低下します。
その結果:
- 膝屈曲時に膝蓋骨が外方へ傾斜
- 膝蓋骨外側亜脱臼のリスク増加
- 屈曲可動域の減少と疼痛の出現
このように、伸展機構の滑走性障害は、屈曲運動全体に影響を及ぼすのです。
臨床的なポイント:治療肢位の工夫
運動療法では、各広筋群の伸張性・滑走性を個別に改善することが重要です。
外側広筋・中間広筋
- 肢位:膝屈曲位+股関節外転位
- 効果:膝蓋骨後外側包埋の改善、滑走性の回復
内側広筋
- 肢位:膝屈曲位+股関節内転位
- 効果:大腿骨内外顆の後方への滑走を促す
- 同時に、外側広筋・中間広筋は大腿骨外顆後方へ滑走 → 膝蓋骨の安定化に寄与
このように、股関節の位置関係を調整しながら広筋群を伸張することで、屈曲可動域を効率的に改善できます。
筋膜と脂肪体の関与
伸張性・滑走性の改善は、筋そのものだけでなく、筋膜や脂肪体の可動性促進とも密接に関係します。
- 膝蓋靭帯
- 膝蓋支帯
- 膝蓋脂肪体(IPF)
- 大腿筋膜
これらの軟部組織の柔軟性が失われると、膝屈曲制限が強くなるため、包括的に評価・治療する必要があります。
治療の流れ
- 初期評価
- 各広筋群の硬度・滑走性の確認
- 膝蓋骨の動態評価(外反・外方傾斜の有無)
- 徒手的介入
- ダイレクトストレッチングによる滑走性改善
- 膝蓋骨モビライゼーションで求心性を整える
- 運動療法
- 股関節肢位を工夫した広筋群ストレッチ
- セッティング・SLRによる伸展機構の賦活化
- 再評価
まとめ
- 膝屈曲可動域は、大腿四頭筋広筋群や膝蓋周囲組織の伸張性・滑走性に依存する
- 膝OAやPF関節障害では内側広筋を中心に組織弾性が低下し、膝蓋骨外方傾斜や外側亜脱臼を引き起こす
- 治療では、股関節肢位を工夫した広筋群ストレッチと、膝蓋周囲の筋膜・脂肪体へのアプローチが有効
- 伸張性・滑走性の改善を継続的に行うことで、膝屈曲可動域を正常に回復させることが可能
膝屈曲制限の背景を「伸展機構の障害」として捉え、組織ごとのアプローチを展開することが、臨床での成果につながります。
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理学療法士として臨床に携わりながら、リハビリ・運動学・生理学を中心に学びを整理し発信しています。心理学や自己啓発、読書からの気づきも取り入れ、専門職だけでなく一般の方にも役立つ知識を届けることを目指しています。