「誰かがお前に過ちを犯したのか? 放っておけ。その人にはその人の気質があり、それはその人自身の問題なのだ。」
ローマ皇帝マルクス・アウレリウスは『自省録』でこう記しています。自分に害をなす人間がいても、それは宇宙の摂理の一部にすぎない。自分は自分の道を歩み、相手は相手の気質に従って生きる。だから必要以上に怒りを抱く必要はないのです。
リンカーンの「送られなかった手紙」
アメリカ合衆国第16代大統領エイブラハム・リンカーンにも、同じような態度が見られました。彼は時に部下や将軍、さらには友人にも激しい怒りを覚えました。しかし直接怒りをぶつける代わりに、長い手紙を書いたのです。
手紙の中で相手の過ちを詳細に指摘し、理解してほしいことを訴える。ところが、書き終えるとそれを机の引き出しにしまい、実際には一度も送らなかった。これらの手紙は死後に発見され、「送られなかった手紙」として知られるようになりました。
リンカーンは知っていたのです。反撃するのは簡単だが、それは後悔を生むだけだと。怒りに任せて行動すれば、必ず「あのとき手紙を送らなければよかった」と悔やむことになると。
怒りは本当に役立つのか?
私たちも同じです。最後にかっとなって自制を忘れたときのことを思い出してみましょう。
- 声を荒げて関係が悪化した
- メールを感情的に書いて信頼を失った
- SNSで衝動的に投稿して後悔した
怒りを表に出して得られたものは、本当にあったでしょうか?一時的な満足感の代わりに、後悔や人間関係の亀裂を残すことのほうが多いはずです。
「人それぞれ」と知ることで心が軽くなる
ストア哲学は「相手の行為は相手の性格や環境から生じている」と教えます。それを自分の問題として背負い込む必要はありません。
- 相手が無礼だったのは、その人の気質の問題
- 不当な言葉を受けたのは、相手の不安や未熟さの表れ
- 自分がどう反応するかは、完全に自分の選択
「人それぞれ」と知れば、怒りに振り回されることなく、冷静に受け流すことができます。
実践のためのステップ
- 感情を紙に書き出す
リンカーンのように、怒りを文字にして吐き出すが、送らない・発信しない。 - 「これは相手の問題」と言い聞かせる
相手の行為は自分の価値を下げるものではない。 - 時間を置く
数時間、あるいは一晩寝かせてから対応を考える。 - 自分の役目に集中する
相手を変えようとするのではなく、自分の務めを果たすことに集中する。
まとめ ― 語らずとも強さは示せる
マルクス・アウレリウスもリンカーンも、怒りを抑える強さを知っていました。怒りに反撃するのは一時的に気持ちがいいかもしれません。しかし長い目で見れば、語らないほうが後悔は少なく、心の平静は守られるのです。
次に誰かの過ちに直面したとき、自分に問いかけてみましょう。
「これは本当に自分が反応すべきことか? それとも相手の気質の問題にすぎないのか?」
その一瞬の自制が、あなたをより自由で、強く、後悔のない生き方へと導いてくれるはずです。