あるがままを受け入れるという考え方
私たちの人生は、必ずしも思い通りに進むわけではありません。望んでいない出来事や、計画していなかったアクシデントは誰にでも起こります。そのとき多くの人は「どうしてこんなことが起きたのか」と心を乱し、ストレスを抱えてしまいます。しかし、古代ローマの哲学者エピクテトスはこう語っています。
「何もかもが自分の願うようにいくことを求めるな。むしろ、何もかもが起こるように起こることを願え――そうすれば君の人生はうまく流れていくだろう」(『提要』より)
この言葉が示すのは、「出来事そのものを変えるよりも、自分の受け止め方を変える方が簡単であり、心を穏やかに保てる」という真理です。
出来事よりも「意見」を変える
起きてしまった出来事を変えることはできません。しかし、自分の意見や解釈は変えることができます。ストア派の哲学では、これを「黙従の技」と呼びます。つまり、つまらないことで争わず、ただ受け入れるという態度です。
例えば、電車の遅延。多くの人は「なんで今なんだ」と不満を抱きます。しかし、遅延という事実そのものは自分の力で変えられません。代わりに「本を読む時間が増えた」「深呼吸できる機会だ」と受け止め方を変えれば、同じ出来事がストレスではなく、むしろ有意義な時間になります。
受け入れるから「愛する」へ
ストア派の達人たちは、ただ受け入れるだけではなく、「起きたことを楽しむ」姿勢を勧めました。さらに時代を経て、哲学者ニーチェはこの考えを「運命愛(アモール・ファティ)」と表現しました。運命を単に受け入れるのではなく、「起きたことすべてを愛する」こと。これが本当の自由と幸福につながるというのです。
想定外の出来事を「これが自分にとって必要だった」と受け止められれば、人生に失望はなくなります。そしてさらに、その出来事に感謝できるようになれば、心は一層強く、豊かになります。
日常での実践法
では、この「あるがままを愛する」態度をどう日常に取り入れればよいのでしょうか。いくつかの実践法を紹介します。
- 出来事を評価する前に一呼吸
「良い」「悪い」と判断する前に、ただ事実を受け止める癖をつけましょう。 - 言葉を置き換える
「最悪だ」と思う代わりに「新しい経験だ」「学びの機会だ」と言い換えてみる。 - 感謝の習慣を持つ
どんな小さなことでも「ありがたい」と思える視点を持つと、出来事への捉え方が自然に変わります。 - 自分にこう問いかける
「これは私が望んでいたことかもしれない」と思考を転換してみる。意外と心が軽くなります。
まとめ:幸福と喜びのレシピ
「思い通りにいかないこと」を避けることはできません。しかし、その出来事をどう受け止めるかは常に私たちの選択に委ねられています。エピクテトスが説いた「出来事ではなく意見を変える」という知恵、そしてニーチェの「運命愛」という思想は、現代を生きる私たちにこそ必要な心のレシピです。
起きてほしくなかったことを「これでよかった」と受け止め、さらには「ありがたい」と思えるようになったとき、私たちは本当の意味で自由になり、幸福に近づけるのです。